本編 

小金井ささらは即答した。

「同じようなものを見たことがある。強い炎の魔法で焦されたらこんな感じになる。」

炎の魔法?この目の前にある鹿の死体が10分以内に炎の魔法で焦がされるっていうのか?

「炎の魔法ですか。ささらさん、実はこれ……。」

そこまで声を発した瞬間、俺は小金井ささらに肩を掴まれ、横に引っ張られた。

ダンテPの契約書を発動しているとはいえ、能力値は大天使ミコエルや運営神TOMOKI++には及ばない。咄嗟のことに身体のバランスを崩して倒れ込む。

「ささらさ……。」

そこまで声を出しそうになった瞬間、俺と小金井さささらのすぐ横を巨大な炎が通り過ぎた。

本編 

ノートのページの光が止んだ。
俺はノートに目を落とす。

「これは……。」

そこにあったのは、黒ずんだ塊。
どう見ても巨大な鹿の原型を留めていない。

「どういうことだ?」

俺が不思議そうな表情をしていたのを見て、小金井ささらが近づいてきた。

「何か……あった?」

ユキちゃんの人形が心なしか首を横に傾けているように見える。

「いえ、鹿が死んでいるかどうかを確認しようと思ったんですけど。」

たしかに死んでいるのだろうが、おかしい。
目の前にある鹿の身体は黒ずんでいない。
どうすれば、ここまで黒くなるのだろうか。

「間違いなく死んでるはず。さっきまであった魔力や力を感じない。」

どういう理屈かはわからないが、小金井ささらも死んでいると判断しているようだから、間違いないのだろう。

「この黒い塊、なんだと思います?」

俺はミライノートのページを小金井ささらに見せた。

「これは炎の魔法で黒くなったもの。」

小金井ささらは即答した。

本編 

「でも、呼吸はしてないっぽい。」

小金井ささらは鹿のほうを見て言った。
たしかに倒れている。

「心音でも聞いてみます?」

文月莉音は少し心配そうだ。
心音。ああ、そうか。

「少し試したいことがあります。下がっててください。」

俺は三人を少しだけ離れたところへ行かせた。不思議そうな顔をしている三人を横目に俺は契約書を発動する。

「"ミライノート"」

俺はタダトモ、ダンテPの契約書を発動した。これを使えば、鹿の未来を確認することができる。

「ノート?」

後ろでかいなの声が聞こえた気がするが、それは聞こえなかったことにした。

「たしか対象に触れてノートを開く、だったよな。」

ダンテPの説明を思い出しながら鹿の身体に触れると、ノートのページが微かに光を発した。

俺はミライノートに10分後の鹿の姿を描くように願った。10分経っても動いていないなら確実に死んでいるだろう。

本編 

かいなと文月莉音は呆然と鹿の倒れる姿を見ていた。

「え?倒れた?」

かいなはまだ信じられないようだ。

「ドイルさんの攻撃、全く見えなかった。」

文月莉音は俺の動きを追っていたようだ。

「「すごい」」

二人の口から同時に言葉が漏れた。

俺は倒れた鹿を見る。思ったより呆気ない終わりだった。

小金井ささらが倒れた鹿の横を通って俺のほうに歩いてきた。

「ささらさん、鹿を引き付けてくれてありがとうございました。」

授業参観。
思った以上に有用なスキルだったな。

「ユキちゃんかわいい。」

相変わらず突然だが、腕に乗せたユキちゃんの人形の乱れた髪を直しているのを見ると、そんなものかと納得してしまう。

「ドイルさん、倒しちゃいましたね。」

かいなたちもこちらに合流した。

「倒したっぽいけど、呆気なさすぎる気がする。」

神の腕力が強すぎたというなら分からなくもないが、あれだけの硬度を誇る敵にそれほど一度にダメージが入るのだろうか。

本編 

でかい。
俺の知っている鹿より数倍は。

「でも、学園に入るためには負けるわけにはいかないんでね!"ブースト""スナイプ""バイタル""連撃"」

ありったけの魔力を使って魔法を重ね掛け、そして、俺は鹿に向かって突撃した。

「くらえ、デカブツ!」

俺は最大の速度で鹿の横に回り込み。小金井ささらに魔法を撃ち込んでいた鹿の横っ腹に一撃を加えた。

硬い。

殴った瞬間に分かる硬度。

ブオオオオオオオオ

これまでの中で最も大きな鳴き声と共に、鹿ががくりと膝を折った。

だが、俺の技は止まらない。
"連撃"の効果で一撃のあと即座に次の一撃が加えられる。俺の拳は、身体硬化によって強化されている。

連続で撃ち込まれた俺の拳は計12撃。"バイタル"によって、俺の一撃はすべて相手の身体内部に浸透する。

「倒れろ!」

鹿の身体が揺れ、折れた膝からそのままゆったりと横倒しに倒れる。

ズズゥゥン

地面が揺れた。先ほどまで動いていた鹿の姿からは想像できない程の呆気ない結末。

「倒した……のか?」

俺の手にはまだ鹿の硬い皮膚の感触が残っていた。

本編 

走りながら腕を広げる。この魔法は、攻撃の讃歌。相手に物理的なダメージを与える度に攻撃の威力を上げる連続攻撃用の魔法だ。

物理攻撃に特化したこの力だからこそ使いこなすことができる。

後は運営神の力を信じるだけだ。
俺は最大の速度で鹿の背後に回る。

その間、小金井ささらは軽微な魔法で鹿に攻撃を加えていたようだが、硬い皮膚のせいなのか効果はない。

鹿の角から発する電撃が見えた。

小金井ささらの"授業参観"で生み出された分身とも言えるうちの数人に雷が直撃して消える。そして、俺のもとにメッセージが届いた。

「"授業参観"が創り出すのは私の影。本体の力を振り分けているから力は弱い。」

そういうことか。数は多いが威力が低い。
だが、撹乱には持ってこいだ。

「それなら後は俺が。」

俺は鹿の背後に立った。

本編 

「ライチョー隊長Pって、あの草原の護り手を?」
「まさか、噂に聞いた"成レ果テ"を止めた人が?」

おいおい、そこまで有名なのかよ。あの戦いのことは、そんなに大勢が知っているはずはないのだが。

「はぁ、一応、その人です。」

ため息混じりの声になってしまう。

「そ、そんな人なら任せても大丈夫かもしれませんね。」
「私じゃ足手まといになりそう。」

二人が速攻で納得していることには違和感を感じざるを得ないが、ここは仕方ない。

「ささらさん。授業参観でアイツの気をそらしてください。俺が……アイツの正面に立ちます。」

そして、俺は動き出した。

動きながら再び契約書を発動する。

"運営神TOMOKI++の契約書"

俺が移動している間に、小金井ささらも"授業参観"を発動したようだ。俺の行く先とは反対側に数人の小金井ささらを目視できる。このまま行けば魔法を撃ち込んで鹿の気を逸らしてくれるはずだ。

文月莉音とかいなは、おそらく動いていない。

「まだ使ったことないんだけど……。」

俺は魔法を唱える。

「"The Rhythm to Realize"」

本編 

「考えて行動する獣はやっかいですね。」

文月莉音も賛同する。

「俺が行きます。」

先ほどの乱入のことを考えても、この鹿は早く討伐しなければならない。文月莉音のスキルで渡り合えるなら、運営神TOMOKI++の契約書を使えば圧倒できるはずだ。

「ドイルさんが一人で行くのは危険です。パワーなら私も負けていません。」

文月莉音は前衛タイプだからこそ、前に出なければ力を生かすことは難しいかもしれない。それでも……

「いや、俺の力ならアイツを沈められます。だから、3人は支援をお願いします。」

文月莉音とかいなは驚いた顔をした。

「ドイルくんに任せていいと思う。」

小金井ささらが助け舟を出した。

「ささらさん、さすがに一人じゃ……」

かいなの言葉を小金井ささらが遮る。

「彼は強い。あのライチョー隊長Pを倒しているくらい。」

その言葉に、かいなと文月莉音がさらに驚いた顔をした。

本編 

「おや?」

俺の頭の中に"メッセージ"が届く。小金井ささらからだ。

「皮膚の硬質化、角からの雷。完全に魔法を使ってる。」

的確な分析だ。

「も、もしかして魔獣ですか?」

かいなの声だ。どうやらオープンな回線になっているようだ。

「ううん。魔獣じゃない。理性がある。」

小金井ささらの言うことが正しいなら……

「動物も自然に魔法が使えるようになるってこと?」

俺の転生前の世界では考えられない。

「希少種……ですかね。」

これは文月莉音だ。
希少種。いわゆるレアな動物か。

「たぶんそう。見るのは初めてだけど。」

小金井ささらは魔法師団だ。魔法師団の若手とは言っても、その経験は段違い。それでも見たことがないとなると。

「でも、魔獣と変わらなくないですか?」

かいながそう指摘する。
いや、おそらくそれは……

「魔獣とはちがう。魔獣は本能のままに暴れる。だから魔法を乱発したり、動きも短調になりがち。」

小金井ささらの指摘通りだ。

「逃げて!」

小金井ささらの声が響いた。

刹那。
鹿の角から巨大な雷撃が放たれた。

「なんだ!」
「うぉぁぁぁぁ。」

槍使いと剣使いが雷撃の直撃を受ける。

雷撃は真正面にいる相手に向かっていくだけで、俺の方には来ていない。

どうやら小金井ささら、文月莉音、かいなも影響は受けていないようだ。

武器に反応したのか、攻撃を受けたから反撃したのか。どちらにせよ、あの雷撃はかなり強力だ。

ぶすぶすという音と共に黒くなった二人の身体がドサリと倒れる。

「これはいけませんねえ。」

おっと、この声は。
黒くなった槍使いと剣使いの背後に姿を見せたのはonzeだった。

「不合格者とはいえ、このままでは死んでしまいますからね。」

onzeは二人の身体を抱き抱えると、そのままどこかへ消えた。

鹿は何のことか分からずに反応できていないようだが、標的を見失っても興奮した鼻息は収まることはなかった。

「試験監督はちゃっかりされてるみたいだな。」

俺は周囲を伺う。どこかに隠れて見ていると考えるのが妥当だろう。

もう一人は小金井ささらやかいなとすれ違うように鹿の左側から攻めようとしている。おそらく武器は刀だ。

ガギィィィィィン

やはり金属音だ。

「くそっ。刺さらねえ。」
「俺の剣がっ。」

男の声が聞こえた。槍使いか。
剣の方にも何か被害が出たようだが、ここからでは確認できない。

鹿への攻撃は効果なしといったところか。

ブルウウウウァァァァ

鹿が首を震わせた。息が先ほどより荒い。
興奮状態にでもなったか。

バチィィィ

なんだ?鹿の周りで何かが弾けるような音が聞こえた気がした。

突然現れた槍使いと剣使いは地面に着地し、鹿に対峙する。

文月莉音は右に避けて飛び退いた後、すでに回り込むように移動して小金井ささらやかいなと合流する動きを見せている。

小金井ささらの分身、と言ってもいいのだろうか。分かれた者たちは数名が鹿に魔法を放つ準備に入っているようだ。

バチィィィィィ

まただ。鹿の近く、いや、鹿の角のあたりから音が聞こえた気がする。

腕力強化の力もあって、純粋な力押しの構図になっているようだ。

「ぐうぅぅぅぅ。」

だが、文月莉音の強化された力でも鹿を押さえ込むことはできない。

「莉音さん!」

かいなが叫ぶ。

「こっち。」

小金井ささらの一人がかいなの手を引いた。俺はまだ動かない、動いてはいけない。
かいなが移動したのを感じ取ったのか、文月莉音が飛び退いた。鹿は咄嗟に角を離されてそのまま前方に突っ込む。

あのくらいならすぐに立て直してくるだろう。そう思った時、どこからともなく声が響いた。

「もらったぁぁぁぁぁ。」
「チェストォ!」

男の声だ。どうやら他のチームも周りにいたらしい。俺たちが鹿と戦っている隙を狙っていたのか。

あそこか。鹿の頭上に槍を突き立てようとする男の姿が見えた。

ブルフッウウウ

鹿には効いていないように見える。それどころは、鹿は足元の氷を蹴り剥がし、攻撃を仕掛けてきたかいなの方に向き直った。

ゴッゴッゴッ

凍った地面を蹴る音が響く。

「突っ込んでくるぞ!」

俺はかいなと文月莉音のいる方向へ叫んだ。
ほぼ同時に鹿は巨大な角を震わせながら二人の方は走る。

「『羆殺し』」

文月莉音のスキルが発動する。特に変わった様子は見られないが、文月莉音は突撃してくる鹿の眼前に立った。

「おおおおおりゃああああああ!」

気合いの入った声と共に文月莉音が鹿の角を掴んだ。余りにも大きな体格差。それにも関わらず、鹿の突撃は止まってしまった。

すげえ。

俺は密かにステータスを確認する。

文月莉音
種族:獣人
レベル:16
固有スキル:羆殺し
経験値:147258
体力:500
魔力:124
攻撃:700(+300)
防御:350
敏捷:502
状態:冬眠LV2、腕力強化LV2

おお、攻撃が上がっている。

ブルゥオオオオオオ

鹿は首を振りながら足元の氷を振り払おうと足を上げようとする。だが、すでに足の一部まで氷が迫り上がろうとしていた。

「まだまだ。」

小金井ささらの言葉に反応したのか、足元の氷が形を変え、鋭く尖った氷柱を作り出す。そして、氷に足を取られている鹿に向かって氷柱が飛んだ。

無数の氷柱が鹿を狙い撃つ。40人分の魔法で作られた氷柱の数は一目では捉えきれないほどだ。時折氷柱同士がぶつかってギンッという音を立てる。

氷柱が鹿にぶつかる。俺は鋭い氷柱が鹿の肌を貫くだろうと思っていた。

しかし、そうはならない。

ガギンッという金属にぶつかったような音が響き、氷柱が折れた。

「やっぱり、硬い。」

小金井ささらは知っていたような口ぶりだ。
おいおい、鹿の皮膚がそんなに硬いなんて聞いたことないぞ。

「私もいきます、"シャイニーウインド"」

かいなが風属性の魔法を放つ。細く尖った風の筋が鹿に向かっていく。

ヒュッという風切り音と同時に風は鹿にぶつかり、小規模の爆破を誘発した。

俺はその場で待機だ。

「ここはTOMOKI++さんの力だ。」

俺は契約書を発動すると、息を潜めて機会を伺うことにした。

鹿は悠然とした態度で地面にある餌を求めて首を下げている。

かいなと文月莉音も位置についたようだ。

「"雪面灯火"」

小金井ささらの魔法だ。発動と同時に鹿の耳がぴくっと震え、鹿が首を上げた。

ブルゥゥゥ

鹿の呼吸が突然荒くなり、吐いた鼻息が白くなっているのが見えた。

息が白く見える?

俺の頭の中に疑問が浮かぶより早く、鹿のいる足元の草が白く氷ついた。

地面が凍りつくのを感じたのか、寒さからか、鹿はその場を飛び退いた。すごい跳躍力だ。地面を蹴ると掘り起こされた土が舞う。

だが、魔法は同時にいくつも発動されている。鹿の飛び退いた先にも氷の地面が広がっていた。

鹿が足をつくと、その氷が足に纏わり付く。足を凍らせて動きを止める魔法なのか。

これだけの数で撃ち込めば物量で押し込める気もするが、魔法師団で戦闘経験も豊富な小金井ささらが言うなら、そこは間違い無いのだろう。

「てことは、鹿が襲ってきますよね?」

かいなは俺が先ほど渡した罠をギュッと握った。かいなと文月莉音は金具とワイヤーで罠を仕掛けることになっているが、これほどの大きさの相手に罠が通用するのだろうか。

「足止めだけでもできれば、あとは私が。」

文月莉音が少し自信なさげに拳を握る。近接戦闘ならば彼女が担当するべきだと言うことなのだろう。TOMOKI++の契約書を使えば問題なく解決なのだが、ここは言わぬが華というものだ。

「後詰めは俺に任せてください。」

俺はあえて最後に鹿に突っ込む役目をかってでた。何かあっても、契約書の力があればなんとかなると信じていたからだ。

「いくよ。」

小金井ささらが動き出した。
小金井ささらは鹿の周囲を取り囲むように静かに移動する。

かいなと文月莉音も罠を手に移動、周りには護衛とも言わんばかりに3人の小金井ささらが付いている。

「"授業参観"」

これは、小金井ささらのスキルだ。静かに発動されたスキルによって、小金井ささらが複数人に分かれていく。かいなと文月莉音は驚きの表情を見せている。何の説明もなく増殖や分身をされたら驚くに決まっている。

しかも、分身なのか、増殖なのか、以前に見せた4人どころではない。

「ささらさん、すごい。」

文月莉音は感心している。

「これで40人。かわいいがいっぱい。」

そうか。ユキちゃんも増えているから、かわいい対象も増加しているのか。

「どうするんですか?ささらさん。」

俺は作戦を確認する。

「気づかれないように回り込んで、魔法を打ち込む。でも、攻撃魔法の威力はそれほど高くない。」

「他のチームが近くにいたら取り合いになってしまうし、ここは罠を作って一気に決めましょう。」

俺たち4人は簡単に作戦を立てると、すぐに鹿を迎え撃つ準備に入った。

「見えた。」

小金井ささらの声が4人の歩みを止める。

そこにいたのは巨大な角を持つ牡鹿だった。
後ろに反り返った角は根元で2つに分かれ、先へと向かうに連れてさらに複数に枝分かれしていく。体躯もかなりのものだ。

長く伸びた首と不釣り合いにも感じる程に細い四本の足。角の先までは5メートルくらいはあるだろうか。横幅は7、8メートルはあるかもしれない。角のせいでより一層大きく見える。

「大きくないですか?あんなの想定外ですよ。」

かいなが不安そうにこちらを見る。文月莉音も巨大な鹿から目が離せないようだ。

「ユキちゃん、よろしく。」

そう言うと、小金井ささらはユキちゃんを乗せた腕をそっと鹿の方へと向けた。

俺は金具とワイヤーを持って3人の元へ合流する。

「これでいける?」

俺が差し出した道具をみて、文月莉音は驚いたような表情を見せた。

「いけます、いけます。あとの組み立ては任せてください。」

文月莉音はそう言うとすぐに組み立てに入った。俺は周囲を警戒している小金井ささらに確認する。

「距離はあとどのくらいですか?」

自分のマップでも確認できているが、小金井ささらのサーチは距離を正確に言い当てた。

「ユキちゃんの歩幅……いいえ、残り300メートルを切っている。」

歩幅という謎のワードが聞こえたことは流しておこう。

「300……もしかして、さっきから遠くで木の動くような音がするような気がするのは、そのせいですか?」

かいなが心配そうに言った。鹿の足音はそれほど大きなものではないが、映像で見た鹿には大きな角が生えていた。それが木に当たって音を立てている可能性は十分にある。

今はそんなことを気にしていられない。

俺は「クラフト」のスキルを発動しながら、魔法を唱える。

「"フェアリーガーデン"」

前に教えて貰ったクラフト専用の魔法だ。妖精の庭を意味するこの魔法は、素材のある場所を教えてくれる。今、必要なものは足くくりの罠を作るための素材。

ワイヤーと金具、それも丈夫な物が必要だ。青銅、チタン、タングステン、ワイヤーになりそうなものにはいくつか心当たりがあるが、果たしてこんな森の中に素材があるのだろうか。

フェアリーガーデンは、近くにあった少し大きめの岩と、木の幹を示していた。岩には素材が含まれているらしい。木には何があるのだろうか。

「考えても仕方ない。"クラフト"。」

俺が岩と木に触れながらスキルを発動すると、手の先が光る。光はすぐに収まり、そこには1つの金具とワイヤーができていた。

Show older
Vocalodon

ボーカロイド好きが集うMastodonインスタンス、通称「ボカロ丼(ボカロドン)」です。 ** This server is for "Vocaloid" lovers. If you are not, please select other server. **

image/svg+xml