アナザーストーリー:一抹の邂逅4
恐らくこちらの存在に気づいて即座に対策をしたのだろうが、それほどの相手ということだ。
「それで剣闘師団様がなんでこんな辺鄙なところにいるんだい?」
ラングドシャPをどこまで信頼してよいのかは分からない。
「私たち剣闘師団はこの先の屋敷に任務のため向かうことになっています。私はその先遣隊です。」
よだかは、相手に詳しい内容が分からないように要点を伝えた。
「あ〜なんだ、ヲキチさんとこに行くのか。っと、いけねえ、王妃様だっけか。俺は王妃様のお屋敷に依頼された物を届けに行った帰りだよ。これでも、冒険者の端くれでね。」
王妃をヲキチと呼ぶだけでなく、王族に類する者からの依頼を受ける冒険者だと?
「それは失礼しました。王妃様のお知り合いとは思わず。ラングドシャP様とお呼びすれば?」
よだかは、まだ警戒を緩めたわけではない。
「ズクさんでいいよ、俺もよだかさんと呼ばせてもらうからさ。」
軽いノリがむしろ不信感を煽る。
アナザーストーリー:一抹の邂逅3
「雪でできているのが不思議かい?俺は妖精族の中でもスノーマン種でね。」
妖精族スノーマン種……プロムナードの北側にいると聞いたことがある。
「あと、何者だってのはないだろ、そっちが俺を先に監視してたんじゃないか。」
まさか、見られていることに気づいたのか?こいつも気配を察知できるのかもしれない。警戒を解くことなく、よだかは答える。
「セレスティア王国剣闘師団、よだか。」
名乗らないのは騎士道に反する。
「俺はZutq。ラングドシャPの称号を頂いている、しがない雪だるまだよ。」
ラングドシャP。称号持ちか。それなら……
「勝手に監視したことについては謝罪します。こちらに争う意志はありません。事情を話させて下さい。」
よだかは、剣の先を下に向けた。
「いいぜ。剣闘師団とやり合うつもりはないしな。」
ラングドシャPは両手をあげた。
よだかも、それに合わせて剣を収める。
戦ったら恐らく負けていた。よだかは気配を察知していたが、このラングドシャPは、自らの気配を偽っていた。
アナザーストーリー:一抹の邂逅2
森を抜ける。ここは、王妃の生家につながる一本道のはずだ。
「ん?この気配は?」
少し先に誰かの気配を感じる。おそらく、道をこちらに向かって歩いてくる者がいる。魔法師団の探知にもかかっているかもしれないが、まだメッセージは来ていない。
殺気を感じない。つまり、害があるようには思えないが、確認は必要だろう。よだかは、草葉の影に身を隠し、通る者を待っていた。他の団員にもメッセージをとばす。
"気配遮断"。剣闘師団が使える魔法によって自らの気配を消す。
気配が近い。おそらくもうすぐ目の前を通るは……
「こんなところから人を覗くのはいい趣味とは言えませんね。」
背後を取られた!?
よだかは咄嗟に草むらから飛び出し、道に転がり出る。前回りをして飛び退くような形になったが、よだかはすぐに草むらの方に向き直り、剣を構えた。
「何者だっ。」
よだかの声に合わせて草むらから、ロングコートを着て、帽子を被った男……だろうか、性別がはっきり分からない、何かが姿を見せる。雪でできているのか?
アナザーストーリー:一抹の邂逅1
王妃の生家へ挨拶にいくファンド王の護衛として、剣闘師団のよだかが選抜された。
団長であるkentaxが、アビサルの国境線で起きたとされる事件の調査にいくため、クロスフェードを出たためだ。
挨拶とはいえ、王家の婚姻に関することは大きなもので、剣闘師団に加えて、魔法師団の団長、泡麦ひえが直々に姿を見せている。
すでに王と王妃は、転移の魔法で王妃の生家の近くに来ているが、よだかは先遣隊として周辺の安全確認に出ていた。
剣闘師団は、魔法などで見つかることを防ぐ敵との戦いを見越して、気配で人や動物の姿を感じ取る訓練を受けている。
実はよだかは気配を感じ取ることに秀でており、それゆえに王の護衛にも選ばれていた。
「魔法の探査から逃れるような相手がいて戦闘になったらどうすりゃいいんだ。」
よだかは剣で草木を払いながら森を歩く。周辺はわりと拓けている場所のため、少し行くと広い道が見えた。
ここを抜けて何も引っかからなければ、安全確認も終了だ。
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アナザーストーリー:小さな火種12
「そんなら行きますか。ミストファイナーくんのことも心配だしね。」
さこつと京橋ひよわも歩き出した。
このアビサルで力を求めることは決して悪いことではない。生き抜くためには当然のことだ。
ミストファイナーはここ最近一気に力を伸ばしてきた。熊の獣人族としての力も申し分ない。
しかし、長く戦いを生き抜いてきた者たちだからこそ感じる危うさがそこにはあった。
単に強い力を得るだけではそれはただの暴力だ。
ミストファイナーを鍛えながら、アビサルの戦士たちはその心の成長を心配していた。
原初の国、アビサル。そこは決闘によって強さを証明する国。
力を求める者たちがいるその国に、いまはまだ燻ったままの小さな火種が生まれていた。
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アナザーストーリー:小さな火種11
「強くなることに焦るのはよくない……って言っても聞かねえだろうな。」
さこつはため息混じりに小さな声で言った。その言葉が聞こえたか聞こえなかったのか、ミストファイナーは懐からジャラジャラと音のする小袋を出すと、さこつに手渡し、くるりと背を向けて歩き出した。
「若さと言えば聞こえはいいが……一応、師範にも話しておくか。さこつさんも、一緒にどう?」
京橋ひよわは、心配そうにミストファイナーの背中を見つめていた。
「そういえば、ラムドP、セレスティアに行くって言ってなかったっけか。」
さこつは、ミストファイナーが立ち去ったのを見計らって京橋ひよわに聞いた。
「定期連絡のために冒険者組合に行く話は聞いたけど、たしか、まだ発ってないはず。」
アビサルは原初の国と呼ばれるだけあって、他の国との交流が多くない。ラムドPはその状況を変えるため、自ら動いていると言っていた。
アナザーストーリー:小さな火種10
「あの2人を同時に相手にするとかどんだけだよ。」
さこつが呆れた口調で言った。
「強い人と闘わないと、強くなれませんから。」
ミストファイナーはハンマーを支えにして立ち上がる。まだ戦い足りないという表情だ。
「立会人だからいいけどよ、俺は遠慮したいわ、結局スキルも武器もなしであの強さだしな。」
さこつは京橋ひよわの方をちらりと見た。
「さこつさんに言われたくありませんけどね。」
京橋ひよわも言葉を返す。互いに強さが分かっているからこそ出てくる言葉だろう。
「お2人の強さは知っていましたが、これほどとは。」
ミストファイナーは、ここ最近、色々な相手と決闘を続けているらしいと、京橋ひよわも聞いていた。
「そんなに連日決闘ばかりして大丈夫か?」
京橋ひよわがミストファイナーに決闘を挑まれたのは、これが2回目。Mr.HedgehogことTAKUMIは3回目だそうだ。
「俺は強くならなきゃいけないんです。」
ミストファイナーの言葉には決意と、そして焦りが見て取れた。
アナザーストーリー:小さな火種9
「おお、さこつさん、立会人をありがとう。」
TAKUMIが声をかけたのは、さこつという猫の獣人。レッドカードPの称号をもつ者だ。
「いいけどさ。あとでちゃんと立会の報酬くれよ。」
さこつは、指でお金のマークを作って見せる。
「ミストファイナーからもらってくれ、あ〜ねみぃ。」
京橋ひよわは、欠伸を噛み殺している。
「さて、俺はそろそろ次の約束に行くとしよう。ミストファイナーが目覚めたら、決闘はまたいつでも受けると言っておいてくれ。」
TAKUMIはそう言い残すと颯爽と走り、その場から消えていった。
「忙しいやつだなぁ。しかし、いつまで寝てんだ?ほら、起きろ。」
京橋ひよわがペシペシとミストファイナーの頬を叩くと、ピクリと反応した。
「ん、んん。」
ミストファイナーが目を開ける。少しボーッとしていたが、すぐに状況を理解した。
「また勝てなかったか〜。つええな〜。」
起き上がったと思ったが、大の字になって再び地面に倒れる。そう、ミストファイナーにとって決闘は恒例行事のようなものなのだ。
アナザーストーリー:小さな火種8
本来は、武器を併用し、スキルと魔法の効果と共に発動することで技となるが、今回は魔法の力のみを身体に使用しているようだ。
発動と同時に、TAKUMIの身体が肥大化する。一回り以上の大きさに変貌し、そのままミストファイナーに一撃を加えた。
ズンッ
鈍い音と共にミストファイナーの身体に拳が刺さる。
「ッッッ。」
声にならない声をあげて、ミストファイナーは後方に数メートル吹き飛ばされた。
ガシッ
地面に激突する前に、ミストファイナーの身体は京橋ひよわによって抱きとめられた。
「こっちより先に寝ちまってるじゃねえの。TAKUMI、やり過ぎ。」
京橋ひよわは、気絶したミストファイナーを地面に寝かせる。
「む、加減を間違えたか。」
TAKUMIは頭をかいて困ったような仕草を見せた。
「それじゃあ、決闘の勝者は2人ってことで。」
突然、声が割って入る。
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アナザーストーリー:小さな火種7
「いけっ、"勝利への一撃"」
勝利への一撃は、打撃用の補助魔法だ。その効果は単純で、武器に付与することで与えるダメージを強化する。ミストファイナーが立ったままのTAKUMIに向けてハンマーを振り下ろす。
ゴスッという音と共に、TAKUMIにハンマーがぶつかった。ミストファイナーは驚きで目を見開く。避けられるか、受け止められるかと思っていたのだ。まさか、正面から受け止めるとは思っていなかった。
「いい一撃だが、俺の防御を破るには力が足らん。」
元々、ハリネズミの針のようなトゲは、体毛の一本一本がまとまって硬化したものである。それゆえに、その力を持った獣人は防御に優れる。
魔法やスキルも使わず、ミストファイナーの一撃は防がれた。そして、頭で受け止められたハンマーがそのまま力で押し返され、ミストファイナーはバランスを崩す。
「僅かな夢を抱いて眠れ、"スラムコーク"」
スラムコーク。Mr.HedgehogことTAKUMIのオリジナルの魔法……いや、技である。
アナザーストーリー:小さな火種6
「それじゃあ、さっきと同じだよ。」
京橋ひよわは、素早くミストファイナーの死角に移動すると地面を蹴った。再び蹴りを入れようとした瞬間、ミストファイナーはハンマーを地面に突き立てる。
「同じ手はっ……くいません。」
ハンマーの上部を地面に打ち付け、その反動で空中へ跳ぶ。京橋ひよわの蹴りは空を切った。ミストファイナーは、そのまま、空中に上がった反動を使ってTAKUMIに向かって蹴りを放とうとする。
「飛び上がるのは良いけどな、空中じゃ無防備だろ?"スピアニードル"。」
TAKUMIの魔法に合わせて、地面が盛り上がり、複数の巨大な針が現れた。まるで槍の穂先のように問答無用でミストファイナーに向かってくる。
「まだまだぁ!」
ミストファイナーは空中で体を捻り、自分に向かってくる土の針を足で蹴った。次々と地面から現れる針をミストファイナーは蹴りながらTAKUMIに向かっていく。
「いいじゃないか。熊の獣人にして、その身軽さは利点だな。」
TAKUMIはミストファイナーを待ち構える。
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アナザーストーリー:小さな火種5
「今回は"武器なし"ってハンデつけてるだけマシだろ?」
獣人族の多くは、自らのスキルに合わせた武器をもつことが多い。ミストファイナーのハンマーがそれに当たる。しかし、京橋ひよわとTAKUMIは、武器を持っていない。
「武器に頼ってるようじゃ、まだまだだ。ミストファイナー、振り回すだけが武器じゃないだろ?」
TAKUMIはミストファイナーがフラフラと立ち上がるのを見ていた。そこそこのダメージを受けたらしい。
「"ハウリング"」
立ち上がると同時にミストファイナーが魔法を唱えた。ハウリングは反響の魔法。音を増幅し、敵を撹乱するものだ。
グオオオオオオ
熊の雄叫びだった。音が周囲に拡散し、京橋ひよわとTAKUMIの元へも音の塊が飛んできたような衝撃を放った。
「荒っぽいねえ。」
TAKUMIが笑う。ミストファイナーは、2人の動きを止めたと思い、再びTAKUMIに向かってハンマーを構えて突進してくる。
アナザーストーリー:小さな火種4
「くそっ。」
ミストファイナーはハンマーを引き戻すが、TAKUMIの方が動きが早く、突っ込んできた球体を無理矢理にハンマーの持ち手部分で受け止めることしかできなかった。
「いてぇ!」
どうやら針が刺さったようだ。ミストファイナーは、そのまま反動で後ろに弾き飛ばされた。そして、針の球体が人の姿に戻る。
「俺の針は痛えだろ。でかい獲物でも、当たんなきゃ意味ねえわな。」
TAKUMIは笑っている。
「まだまだぁ!」
ミストファイナーは、再びハンマーを振り上げてTAKUMIに迫る。
「2人以上を相手にする時には、一方から目を離しちゃダメだと前にも教えたろ?」
TAKUMIがそう言った瞬間、ミストファイナーの真横から一撃が加えられた。
「うわっ。」
ガードが間に合わず、ミストファイナーはそのまま横に吹き飛ばされる。ミストファイナーを横から強襲したのは、当然、京橋ひよわだ。どうやら蹴りを入れたらしい。
アナザーストーリー:小さな火種3
「TAKUMIって呼べって。呼び方にこだわりはないけどさ。」
随分と気を抜いているようだ。
「油断!」
ミストファイナー。若手の中でも最近メキメキと力をつけてきた熊の獣人だ。どこから出したのか、巨大なハンマーを振り上げ、兎とハリネズミの獣人に襲いかかる。
「甘いっつの。」
京橋ひよわは、相手の動きを読んだかのように軽く身をかわす。水色の毛皮がふさりと揺れる。
「じゃ、俺が行く。この後、ノヒトとの約束があって、後がつかえてんだわ。」
Mr.Hedgehog、いやTAKUMIはクルリと身体を回すと、全身を針のついた球体に変え、ミストファイナーに向かって転がった。ガリガリという音を立てながら、針が地面を抉り、そのまま突っ込んでいく。
「止めてやるっ。」
ミストファイナーは、ハンマーを前に突き出した。真正面から受け止めるつもりだろう。その瞬間、針の球体は鋭角に曲がり、ハンマーの横をすり抜けた。
「TAKUMIさんのそれは、自在に動くぞ。」
京橋ひよわの方は避けた後、反撃する様子もない。
アナザーストーリー:小さな火種2
アビサルの者たちはお互いに故郷の話をすることなどほとんどない。過酷に生きるためだけの環境の話をしても仕方がないからだ。そして、アビサルが原初の国と呼ばれる所以はそれだけではない。
このアビサルではレミルメリカで唯一"決闘"が認められている。生き残るために戦い、強くなっていく。それだけが自らの価値を認めさせる手段なのだ。
そして、今、熱帯雨林のある地区の獣人がまさに決闘をしようとしていた。
「くそねみぃ。」
片方に立つのは水色の毛皮をもつ兎の獣人。寝起きなのか、寝不足なのか、フラフラしている。
「今日こそ勝たせてもらいます。」
熊の獣人だと思うが、かなり若く見える。
「いや、やる気だせよ、ひよわ。相手に失礼だろ……。」
そう言うのは、ハリネズミの姿をした獣人だ。
「そういうお前こそ、本気で戦ってやれよ、Mr.Hedgehog。」
京橋ひよわ、そして、Mr.Hedgehog。
獣人族の2人は、どうやら決闘を申し込まれたようだ。
アナザーストーリー:小さな火種1
原初の国・アビサルは北側に灼熱に燃える山を有し、南側には熱帯雨林と長い川を有する未開拓の大地が多く残る。
レミルメリカではかなり北に位置している国のはずだが、常にマグマが噴き出すような灼熱に燃える山々がある場所があることで、年間の気温はかなり高い。
そのため、国の南側には熱帯雨林が広がっており、レミルメリカで最も長い川もこの国の中に流れている。セレスティアを自然の国とするなら、アビサルは自然が完成される前の原初の場所。それゆえに原初の国。
アビサルはその過酷さゆえに人間はほとんど住んでいない。代わりに、過酷な環境に自らを適応させた"獣"たちが集っていた。
かつてドイルたちを襲った春沢翔兎は、兎の獣人族で、この地で生まれ育った。多くの者は成長すると、独り立ちのためにアビサルを離れ、世界各地へと散らばる。獣の力を宿す者たちは力も相応に強く、巨大な斧を自在に振り回す羊の獣人・ラムドP、"マケッツ"のひとりとして伝説に刻まれる喜兵衛もこの地の出身だと言われている。
強力なスキルの代償にコントロールがきかないのかもしれない。
「そんな理由があったんですね。」
タダトモさんも、そこまで詳しくは知らなかったようだ。
「そうだ。ドイルって言ったか。お前、スキルはいくつまで使えるんだ?」
突然、ごーぶすさんから質問が飛んできた。
「今使えるのは、はなぽさんのやつをいれて3つです。上限はまだわりとありますよ。」
……………
アイテムボックス(1502/∞)
ドイルの契約書1
ミコエルの契約書1
TOMOKI++の契約書1
わんわんPの契約書1
白紙の契約書1497
封印の鍵1
……………
うん。1497とは言えないな。
「どうだ。詫びと言っちゃなんだが、俺のスキルも使ってみねえか?」
ごーぶすさんから、まさかの提案が投げかけられた。
「それは、願ってもない話ですけど、本当にいいんですか?」
俺は新しい力を得ることができるが、ごーぶすさんには何の得もないように思える。
「ま、思いっきり敵にやられた時くらいしか、使えねえんだけどな。」
俺は初めてごーぶすさんが笑っているのを見た気がした。
#ボカロ丼異世界ファンタジー
本当にこのあたりに1人、いや、1匹?で住んでいるようだ。
「俺は昔の戦争の時、このスキルで街を滅ぼしちまったのさ。」
ごーぶすさんが語り出した。ちょうどタダトモさんが戻ってきた。どうやらコーヒーを淹れたようだ。いい香りがする。
「皆さん、まずは一息いれましょう。」
タダトモさんがカップを配る。
「俺のスキルの発動には条件があってな。俺が誰かから一定以上のダメージを受けると勝手に出てきちまうんだよ。あの毒は石や草だけでなく機械まで壊しちまう。その上、猛毒だからな、人間だけじゃなく動物まで含めて、ほとんどのやつはアレに触れるだけで致命傷だ。」
ごーぶすはコーヒーを飲んだ。嘴を器用に使っている。
「毒が体に入ると、助からねえ。あれは火をつけたら爆発するから処理も難しくてな。発動すると俺も自分じゃ止められねえんだわ。攻撃してきた相手を殺すまで、毒はひたすら追いかけていくんだ。」
自動追尾していたのは、そのためか。
「でも、周りを巻き込みすぎるから、戦士を辞めてこうやって草原のお守りをしてるってわけよ。あとは誰か女でもいれば最高なんだけどな。」
スキル名"成レ果テ"。
俺の知る限りで言えば、ごーぶすさん、いや、ライチョー隊長Pがボカロ丼に挙げていた楽曲のタイトルだったはずだ。たしか、初めて青い服を着た例の男性ボカロを使ったと言っていた。まさか、こんなところでスキルとして再び名前を聞くことになるとは。
「あれは、はなぽさんのおかげですから。」
謙遜ではなく、はなぽさんの"クラフト"がなければ実際危ないところだった。
「ごーぶす殿、ドイルさんのスキルは、どうやら、誰かのスキルをコピーして使えるというものらしいのです。」
はなぽさんが説明してくれた。
「そいつはまた珍しいスキルだな。はなぽさんのスキルは便利だから、覚えといて損はねえし、良かったな。」
どうやらタダトモさんから簡単な事情は聞いたようだ。
「警戒されちゃうと困るから、あまり広めないでくださいね。」
はなぽさんにも釘をさしておきたいところだ。あとでタダトモさんにも言っておこう。
「俺は転移の魔法を使うとき以外は、誰かに会ったりしねえから広まらねえよ。タダトモあたりに言っときな。」
小屋の中に入り、奥へ進むと寝室に行き着いた。ベッドの上では、ごーぶすさんが目を覚ましている。
「迷惑をかけたようだな。」
はなぽさんと俺が部屋に入ると同時にごーぶすさんが話しかけてきた。
「ごーぶす殿、大丈夫ですかな?」
はなぽさんはベッドの横に立つ。
「記憶は朧げだが、身体は何ともねえよ。」
ピンク色の美しい羽根を震わせる。
「すまなかったな。あれが俺のスキルなんだ。」
ごーぶすさんは、こちらを見ながら謝罪を述べた。タダトモさんは、飲み物を取ってくると言って席を立った。ごーぶすさんは、自分のスキルについて語ってくれた。
「あまり楽しい話じゃねえんだけどな。迷惑をかけたからには説明しなきゃならねえだろう? 」
ごーぶすさんは羽根を広げてたたみ直す。
「疲れているでしょうし、無理をする必要はないですよ。」
聴きたい気持ちはあるが、まだ無理はさせられない。
「回復魔法を唱えてくれたのは、おめぇだろ?ドイルって言ったか。しかも、俺の"成レ果テ"を止めるとは大したもんだ。」