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アナザーストーリー:空欄4 

「………………」

ノヒトが無言で立っている。

「ノヒトさん、ノヒトさん。」

顧問Pがノヒトの身体を揺らす。

「は、はい。あれ?先生……?」

ノヒトは驚きの表情を浮かべている。

「ノヒトさん、先ほども言いましたが、顧問でいいですよ。」

顧問Pは、プロフィールの紙をひらひらさせながらノヒトに告げる。

「突然ボーッとするなんて危ないですよ?しっかりなさってください。それでは当該学生たちの調査は進めておきます。」

顧問Pは書類を手に持つと、そのまま部屋を出て行った。あとにはノヒトだけが残されている。

「顧問さん、ありがとうございます。」

顧問Pに頭を下げると、自分の手に一枚のプロフィールが残っているのを確認した。その一枚を見ると「越黒リタ」と書かれている。

「なんでこの書類があるんだろう?」

越黒リタの書類に目を通すが、特に不備は見当たらない。ノヒトの仕事は受験生の書類の不備について確認をすることだったはずだ。

アナザーストーリー:空欄3 

「特に気になるのは、この学生でして。」

そこにあったのは『越黒リタ』という学生の書類だった。

「見てください。ここ、出生地が記入されていないのです。データベースとも照合したのですが、記録がなく、どうしたものかと。」

(闇姫Pめ、雑なことを……)

ノヒトが指を指した欄は、たしかに空白になっている。顧問Pは顔色一つ変えずにノヒトに同意を示す。

「たしかにそのようですね。本人への問い合わせをしておくことにしましょう。」

顧問Pはノヒトから紙を預かり、越黒リタのプロフィールを確認する。いつの間にか、他の教師たちはいなくなっており、教室にはノヒトと顧問Pの2人だけになっていた。

空欄になっているのは出生地のみ。
明らかにわざと飛ばして書いたように思える。

「ふん。貸しにしておくぞ、闇姫P。」

同時に、顧問Pのスキルが発動した。時間にしてほんの数秒。ノヒトはスキルが発動したことにすら気がついていなかった。

アナザーストーリー:空欄2 

ノヒトは、昨年より学園に勤め始めたばかりの新人であるが、それまではプロムナードにある企業で働いていた。何があったのか、詳しくは知らないが、学園で教鞭をとる道を選んだらしい。

「それでは、失礼して、顧問さんと呼ばせて頂きます。」

顧問P。同じく学園で教鞭を取る教員の一人である。ノヒトよりも早く、学園に勤務しており、すでに5年になろうとしている。

「お好きにお呼びください。それで、どうされたんです?」

顧問Pからの質問にノヒトは少し困った顔を見せた。

「今年の受験希望者の中に気になる者たちがいまして……。」

そう言ってノヒトは数枚のプロフィールを提示してきた。

「分かりました。受験生の確認は、私の担当でもありますから、少し調べておきますよ。」

紙を受け取り、ペラペラとめくってみる。

文月莉音、きいち……どこかで見た名前が数名混じっている。

(よく確認しているじゃないか)

顧問Pはノヒトの観察に敬意を示した。どうやら書類に誤字や訂正がありそうな学生、確認が必要な学生たちをチェックしていたようだ。

アナザーストーリー:空欄1 

「今年の入学試験の問題は、これでいきましょう。先生方、お疲れ様でした。」

議長の挨拶で、各自がバラバラと席を立ち、部屋を出始めた。

『インベントリ』

配布された大量の資料をまとめて魔法で収納する。こうしておけば、誰かに見られる心配もない。入試問題の漏洩という最悪の失態は避けねばならない。

「先生。」

会議室を出るところで、後ろから声をかけられた。部屋に戻って溜まっている仕事を片付けたいのだが、無下にするわけにもいかない。人間関係は大切なのだ。

「どうされたんですか、ノヒトさん。というか、お互いに先生になるのですから、名前で構いませんよ。」

nohit record 略してノヒト。細身の体躯をした人族の男性である。

ここは、クロスフェードにある学園の会議室だった。近日行われる予定の入学試験の問題の最終確認と受験する学生の確認を行うための会議が終わったところである。学園の全教員が集まるこの会議には60名近い者たちが集まっていた。

アナザーストーリー:次なる目的地4 

焼き終えた魚を囲みながら、3人の情報交換が行われた。

話し終えると夕立Pは、横穴を出ていった。本当に戦闘の意志はなかったのだろう。

そらうみれいの過去については一切聞かれることはなかった。

「エイさん、やっぱり俺たちもクロスフェードへ行こう。」

魔方陣の話を伝えたら、夕立Pもクロスフェードへ向かうと言っていた。

そして、春沢翔兎も、夕立Pからの見返りに情報を求めた。

春沢翔兎とそらうみれいの目的を果たすための鍵は、やはりクロスフェードにあるらしい。

「下手すると城に忍び込むことになるからな。エイさん、その時は頼むぜ。」

そらうみれいは無言で頷いた。

そこからさらに数日後、2人の姿は横穴から消えていた。

アナザーストーリー:次なる目的地3 

「そこのエイさんの過去のことをお聞きしようかとも思ったのですが、先ほどの機械人形を見て少し思い当たることがありまして。聞かせて頂けませんか?『私と戦った青年』のことを。」

戦闘があったのは、ほんの数日前のことだ。

しかもあの場にいたのは、目の前に姿のある隊長と呼ばれていた毒使いを始め、数人だけ。いったいどこから夕立Pが情報を得たのか、春沢翔兎もそらうみれいも推し量ることはできなかった。

「不思議そうな顔をされますね。情報屋とはこういうものです。もちろん、代価はお支払いしますよ。まずは……これからですね。」

夕立Pがライチョー隊長Pの姿のまま、羽根を羽ばたかせると、いつのまにかそらうみれいが地面に落としていた魚が宙を舞った。

夕立Pは、先ほどと同じ眼鏡をかけた青年の姿に変化し、魚を右手に持つと、手から炎を出して焼き始めた。

「私の……仕事……。」

そらうみれいがポツリと言った一言はそのまま流されてしまった。

アナザーストーリー:次なる目的地2 

「機械の弱点が雷魔法なのは、子どもでも知る常識ですし、そこのエイさんは、水を操作することができるようだ。先ほど泳いでいた時、水を纏われていましたよね。水を操ることができるなら、弾丸に水魔法をかけることも容易でしょう。」

なんという分析力。情報屋とはよく言ったものだ。春沢翔兎とそらうみれいは動きを止めた。

「もうよろしいですか?僕は今ここであなたたちと戦うつもりはありません。」

春沢翔兎たちにはまだ打つ手がないわけではなかった。しかし、これ以上の戦う理由もない。

「ちっ。分かったよ。それで、何が聞きたいんだ?」

春沢翔兎は、ドサリとその場に腰を下ろした。それに合わせて、そらうみれいも銃を下げる。

夕立Pは再び姿を変えた。

そこにはライチョー隊長Pの姿が現れる。

「趣味悪いな、あんた……。」

春沢翔兎は舌打ち混じりだ。

アナザーストーリー:次なる目的地1 

「お前に話すことなんて……何もない!」

夕立Pの周りに2体の機械人形が出現する。
春沢翔兎のスキル"ジオ"だ。

「これは、オートマタですか。」

夕立Pは興味深そうに機械人形を観察する。

「いけっ、"ジオ"。」

2体の機械人形が夕立Pを挟むように同時に殴りかかる。

「私に打撃は効きませんよ?」

機械人形の手は夕立Pの顔面と腹部を捉えるが、グニャリと形を変えた中に吸い込まれていくような形になってしまった。

「そんなこと分かってるさ。エイさん!」

春沢翔兎はまだ完全に回復しきっていない。それゆえに囮になった。そらうみれいは、機械人形が殴りかかっているうちに距離を取り、銃を構えていた。

「撃つ。」

そらうみれいの銃声が響く。発射された弾丸は、夕立Pへまっすぐに向かっていく。

「単調すぎますよ。"ライトニング"。」

夕立Pから稲妻が走り、機械人形とそらうみれいが発射した銃弾にぶつかる。機械人形はガクンと動きを止め、銃弾は爆発した。

アナザーストーリー:潜みし者5 

ズキュウウウウウン

銃声が響き、夕立Pの顔面を吹き飛ばした。

「エイさん!」

春沢翔兎は叫んだ。
そらうみれいは反射的に銃を撃っていた。
狭い横穴に銃声が反響している。

「フゥッ、フゥッ、フゥッ。」

少し興奮状態になっている。

「いきなり撃つとは野蛮ですねえ。頭が吹き飛んでしまいました。」

ドロドロとしたスライムが再び人型になる。
スライム種には物理攻撃は効果がない。
銃を撃つなら、魔法を込めた弾丸で無ければダメージはない。

「これではっきりしましたね。あなたは、プリズムの離反者ですか。これは興味深い。」

夕立Pがニヤリと笑う。

「うる……さい。」

そらうみれいが不満を表にした。

「僕はほんの少しお話を聞かせてもらえば良いだけです。どうぞ、よしなに。」

敵意を露わにするそらうみれいと春沢翔兎
敵意を見せない夕立P

この3名の邂逅は予期せぬ物語だった。

アナザーストーリー:潜みし者4 

眼鏡をかけた青年の姿に変わっている。姿を変えられるということは、これが本当の姿とは言えそうにない。

「何の……よう?」

そらうみれいは銃を構えて、夕立Pに狙いを定める。

「おやおや、そちらのエイさんはスナイパーでしたか。用と言いますか、なぜ海底ミコエル神殿を探っていたのか、少し興味がありましてね。」

夕立Pは銃を向けられても全く動じる様子はない。

「ごめん……つけられた。」

そらうみれいは春沢翔兎に謝罪した。

「いや、エイさんが姿を隠していたのを見抜いたこいつが凄いんだ。気にすんな。でもな、夕立Pさん、俺たちが理由をわざわざ話すと思うかい?」

春沢翔兎はいつでもスキルを発動できる態勢を整えている。まだ身体は万全ではないが、この狭い横穴なら、こちらの速度が有利だ。スライム種はそこまで早く動けない。

「お話頂けるなら、何事もなく終わるのですがね。それに、そちらのエイさん、海獣族にも関わらず、わざわざ姿を隠さなければならないご様子。見つかってはいけないと考えると、りは……。」

アナザーストーリー:潜みし者3 

「ああ、そんなに警戒しないでください。私はあなたがたに少しお話を聞かせてもらいたいだけです。」

そう言うと、そらうみれいが先ほど横穴に入ってきたところに程近い場所の壁がどろりと溶けて変化した。溶けた液体のようなものがどんどん人の形を作っていく。

そこに現れたのは、1人の男の姿だった。

「お前、人の姿をしているけど、スライムだろ?」

どうやら春沢翔兎は、即座にその正体を見抜いたようだ。

「ご明察。私は突然変異によって力を授かったスライム種です。」

再びどろりと身体が溶け、別の個体、次は先ほどとは全くちがう女の子の姿になった。

「私の正体をすぐに見破るなんて、兎さん、なかなかやるね!」

声まで子どもになっている。

「いったい何のようだ。」

春沢翔兎が声を荒げると、再び別の姿へと変化した。

「ふふふ、おふざけはこのくらいにしておきます。僕の名は、たちやん。夕立Pの称号を持つ情報屋です。」

アナザーストーリー:潜みし者2 

「むう。」

そらうみれいは、低い声をあげた。

「燃えた。」

そう。そらうみれいは、なぜか以前料理をすると言って、突然天井を焦がしたことがあるのだ。それ以来、春沢翔兎が料理を担当してきた。

「だから、な?魚の調理は任せてくれないか?」

春沢翔兎は説得する。

「仕方ない……譲る。」

少しの間、お互いに目を合わせたあと、そらうみれいは、そっと魚を差し出した。

「ふぅ……。」

春沢翔兎は安堵した。

「いやぁ、心温まる友情ですねぇ。」

パチパチと手を叩く音が穴の中に響く。

そらうみれいと春沢翔兎は、声を聞いた瞬間、飛びのいて2人で背を合わせて死角を無くした。

これほど近くに声が聞こえるまで、誰かの接近を許すとは、春沢翔兎の耳は、獣人族だけあって人間などよりもはるかに細かい音を拾う。そらうみれいは、海獣族。いくら油断していても水の流れには敏感なはずだ。

それをここにいる何者かはくぐり抜けた。
それだけで十分脅威となる。

アナザーストーリー:潜みし者1 

そらうみれいが横穴に戻ると、春沢翔兎が起き上がっていた。

「エイさん、戻ったのか。」

魔法を解除するとそらうみれいの姿が露わになる。

「ととさん……寝てなきゃ。」

よく見るとそらうみれいは、手に数匹の魚を捕まえていた。

「多少は動けるようになったから、大丈夫だよ。それ食べよ。」

春沢翔兎は、そらうみれいの持っている魚を指差した。兎の獣人族だが、別に魚を食べられないわけではない。むしろ、野菜よりは肉を食べることのほうが多いかもしれない。

「……無理しないで……焼くから。」

そらうみれいは魚を調理しようと考えているようだ。それを聞いた春沢翔兎の表情が変わる。

「待つんだエイさん。調理は俺が変わる。」

春沢翔兎の声には必死さが感じられる。

「ととさん、病み上がり。」

そらうみれいは自分がやろうと思っているようだが、なぜか、春沢翔兎の顔は険しい。

「いいかい、エイさん。この間のことを思い出してくれ。前の隠れ家で、料理したときにエイさんは何をした?」

春沢翔兎は問いただす。

アナザーストーリー:海底の横穴3 

「大丈夫ですよ。雨乞いの儀が終わったら休みも取れますから。」

随分と疲れているのだろう。遠目からではよく分からないが……。

海洋評議会が多忙なのは、あの頃から変わっていないのだろう。そらうみれいがまだプリズムにいた頃から。

しょこらどるふぃんとシーラカンスの会話を聞き終えたそらうみれいは、姿を隠したまま神殿付近を探索した。

どうやら海底ミコエル神殿は本当に儀式に向けた準備を行っているようだ。祭壇用の資材が次々と運び込まれている。

「そろそろ……戻る。」

そらうみれいは、春沢翔兎の元へ戻るために方向転換。水音をさせることもなく、泳いでいった。

だが、姿を隠しているはずのそらうみれいに気が付いた者がたった一人。

「おやおや、情報収集のために海底ミコエル神殿に来てみれば、面白いものを見つけてしまいましたねえ。」

水に同化した液体状の身体は、完全に水中に擬態している。

「少しついていってみますか。」

そう呟くと、そっと水が動き出し、そらうみれいを追跡した。

アナザーストーリー:海底の横穴2 

「エイさん、無理はするなよ。」

春沢翔兎の届かない声が、そらうみれいを心配していた。

そらうみれいは、海中を進み、海底ミコエル神殿にたどり着いた。やはり慌ただしく海獣族たちが出入りを繰り返している。

そこに一際目立つイルカの獣人がいた。

「雨乞いの儀に向けた派兵の準備はどうなっていますか?」

イルカの獣人は確認を取っているようだ。横に控えているのは……あまり見たことのない海獣族だ。

「すでに陸上部隊の編成を終えました。」

古代魚の海獣族。あれは……

「ありがとうございます。シーラカンスさん。セレスティアには使者を出しましたから、あとは雨乞いの儀式の時に、この神殿からエネルギーを送る準備だけですね。」

雨乞いの儀はそらうみれいも聞いたことがあるが、エネルギーを送るとはどういう意味なのだろうか。

「しょこらどるふぃんさん、少しはお休みになったほうがよろしいのでは?」

しょこらどるふぃん。
おそらくそれが、イルカの海獣族の名前だ。
見た目からして海洋評議会のメンバーであることは間違いないだろう。

アナザーストーリー:海底の横穴1 

そらうみれいは春沢翔兎の傷が完全に癒えるまで海底ミコエル神殿の近くにある横穴に身を潜めていた。

「まったくこっぴどくやられたもんだ。魔力もほぼ空になっちまったから、動くに動けねえ。」

春沢翔兎は、横になりながらボヤいている。

「ととさん……治るまでじっとしてて。」

そらうみれいは、回復魔法は使えない。しばらくはこの横穴で静養するしかないのだ。

「そういえば……神殿が騒がしい。」

普段、海底ミコエル神殿は、あまり人の出入りもないのだが、随分と慌ただしくなっているように見える。

「雨乞いの儀が決まったからだろうさ。あとはもしかしたら、エイさんのことがバレたのかもな。」

春沢翔兎のことばにそらうみれいがピクリと尾棘を震わせた。

「プリズムは……離反者を……許さない。」

そらうみれいは、手に持った銃を構え直す。

「エイさん、そのことはもう……。」

春沢翔兎が最後まで言い終える前にそらうみれいは、動き出した。

「……偵察行く。」

そらうみれいは魔法でその姿を隠すと、横穴を出て行ってしまった。

「なんにせよ、これで一安心ですね。」

天幕に入り、出されたお茶を飲みながらタダトモさんが話し始めた。

「例の2人組のことは気がかりですが、我々はクロスフェードに戻るしかありませんな。」

はなぽさんもお茶を啜っている。

「ドイルさんは、学園の試験を受けるんですよね?」

そういえば、そんな話をしていたな。隊長とのバトルで完全に飛んでた。

「そうですね。」

学園、学園か。まあ、転生していきなりバトルに巻き込まれたことを考えれば、学園生活を送るのも悪くないかもしれない。

「クロスフェードに戻ったらすぐに試験の手続きをしないといけませんね。」

タダトモさんは自分ごとのように張り切っている。

「ドイルさんなら余裕でしょうな。いっそ、隊長のスキル"成レ果テ"でも使って見せては?」

はなぽさんは笑っている。

「あんな危ないスキル使ったら即日不合格になりそうし、やめておきます。」

試験会場を毒の沼に沈めるとか、魔王ルート一直線じゃないか。

そんな他愛ない話をしていると、天幕が開き、よだかさんが顔を見せた。どうやら出発の準備が整ったようだ。

kentax団長、one my self、金星伊津可、はなぽ、タダトモ、そして、この俺、ドイルの6名は情報共有を兼ねた会談を行った。

ごーぶす、ライチョー隊長Pを襲ったマキエイと春沢翔兎という2人組(人ではないが)の話が主な内容である。どうやらあの2人は"成レ果テ"から逃れた後も毒の後遺症に苦しめられており、剣闘師団と魔法師団に水を提供する代わりに解毒をしてもらったということのようだ。kentax団長のところに、もう少し早く隊長から連絡が来ていれば捕獲していたとボヤいていたが、後の祭りだ。

しかし、剣闘師団も魔法師団もあの2人がなぜ転移の魔方陣を狙ったかまではわからないようだった。かくいう俺たちも突然襲われただけで理由は全くわからない。剣闘師団は、クロスフェードに戻り次第、マキエイと春沢翔兎の捜索を始めるそうだ。そして、俺たち3人はクロスフェードまで転移で連れて行ってもらえることになった。

"天空の頂"のことは情報が集まるまで、しばらくみんなには黙っておこう。

話が終わると、出発までの間、俺たち3人は天幕で休むようにと案内されたのだった。

「そんな挨拶は古今東西存在しません。御三方、大変失礼しました。私はone my self、剣闘師団の団員です。親しい人はワンマイと略して呼ばれますので、どうぞそうお呼びください。」

one my self 、本人には会ったことがないが、ボカロ丼にいたギターアイコンの人だ。ボカロ丼は英語の名前の人も大勢いたから印象に残っている。

「俺は徳皆無。お前らの話を聞かせてもらうぜ。」

徳皆無。ボカロ丼にいたことは覚えているが、何をしている人だったかまでは覚えていない。でも、たしかこの人の名前は……。

「失礼、話が聴きたいのは"こちら"の私。徳皆無に代わり、ここからは金星伊津可がご挨拶申し上げる。」

そうだ。名前が複数あるボカロPだった。使い分けと読み方が分からなかったことはよく覚えている。しかも、今の切り替わり用。もしかして二重人格か何かなのだろうか?

「ワンマイさんと金星伊津可さんですな。よろしくお願いします。私ははなぽ。わんわんPと申します。」

6名での会談が急にスタートした。

「よぅ、久しぶりだなぁ、はなぽさん。」

剣闘師団の天幕に案内された俺たちが中に入ると、気さくに声がかけられた。横には剣士と魔法使いが控えている。

「kentax団長。久しいですな。」

はなぽさんも挨拶を返す。

「前に王国主催の催しで会って以来か?ちょっと前まではよく会えてたのに、お互い、忙しくなっちまったなぁ。」

どうやら以前からの知り合いのようだ。

「おお、こいつらが、隊長から連絡のあった2人だな。ドイルってのはお前か?若いのになかなかいい面構えしてんな。」

なんだこのマシンガントークは。kentax、名前からしてボカロ丼にいるんだろうが、実際ほとんど知らないから対応に困る。

「そうです。よろしくお願いします。」

とりあえず敬語で返そう。

「なんだなんだ、固えやつだな。そんなことじゃ、女1人も口説けねえぞ?」

そんな予定はない。

「団長、お客人へのご挨拶を先に済ませないと。」

控えていた男性の剣士から声がかけられた。
ワンマイ……その呼び方。もしかして。

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