「あれは……天使?」
少し離れた場所からでもはっきりとわかる背中にある2枚の羽根。淡いピンク色が木々の間の木漏れ日でより美しく輝いている。
青か緑か、腰くらいの長さまである髪の毛が風もないのに揺れている。羽根と髪の色のコントラストが、より一層彼女の美しさを際立たせていた。
よく見ると頭の上にも薄く金色の輪が見えている。
「どう見ても天使だよな?こんなところで一体何を……。」
10mほどの距離をとって、木の後ろに隠れつつ、俺は様子を伺う。息を殺して、じっと。
天使は背を向けて動かない。よく見ると、地面に両膝をつけて頭を下に向けている。
「祈りを捧げているのか?」
後ろから見ただけでは分からないが、両手を胸の前で組む聖女の姿が頭をよぎった。場所が場所ならミレーの『晩鐘』にでも例えるところだが、そうも言っていられない。
目の前の天使は敵か味方か分からない。木の影から天使の背中を注意深く眺める。相手がどんな力を持っているかも分からない。下手をすると、突然の攻撃もありえる。
俺はしばらくの間、天使の背中とにらみ合いをすることになってしまった。