アナザーストーリー:招かれざる客2
神代の時代にいづこともなく持ち込まれた戦いの書物。孫子なる人物が、過去、レミルメリカにいた記録は残っていない。しかし、過去のレミルメリカの偉人たちは『武経七書』『三兵戦術の基礎』『築城技術知識ガイドブック』等のいつどこの物かも知れぬ書物を読み解き、同じ名前でレミルメリカに浸透させた。すでに、これらが別世界の書物であることを知る者はほとんどいない。"司書"である私ですら"司書"になり、図書館の最下層であるこの場所で、隠り世の原著に当たるまで真実を知るに至らなかった。
刹那、私は猫の耳がピクリと跳ねたのを見逃さなかった。
「こんな時間にご来館のお約束はしていなかったのですけどね。」
ニャーーーン。
切身魚が本の表紙を閉じると同時に、彼女の姿は音もなく闇の中に消える。地下三階には姿のない猫の鳴き声だけが響いていた。