鬱蒼と茂る森の奥。彼女は身を潜め、獲物が動くのを待っていた。
目の前にいるのは鹿だ。首を下にして夢中で草を食べている。群れとはぐれたのか、他の鹿がいない。
満足したのか、鹿は無防備に首を持ち上げた。その瞬間、彼女は草陰から飛び出し剣を振るう。
「ウインドエッジ」
そう唱えると同時に剣から風の刃が鹿に向かって飛ぶ。
鹿は音に反応して逃げようとするが遅い。
彼女の"飛ぶ斬撃"が鹿の首を切り落とした。
「やった。」
倒れた鹿の側に歩み寄り、死んでいることを確認する。仕留めた鹿の血抜きをして切り分けて持ち帰る。
ここは彼女にとって庭のようなものだ。幼い頃からこの森で育ってきた。毎日のように森を駆け回り、時には狩りをして、時には川で泳ぎ、森と共に生きてきた。この場所だけが、彼女を本来の自分に戻してくれる。
鹿の肉を持ち、森を出ると、そこには人が立っていた。森には似つかわしくない燕尾服を身につけている。
「爺や…どうして。」
彼女はとても嫌そうな顔を見せる。爺やと呼ばれた人物は、全く意に介さない様子で言った。
「お迎えに上がりました。」