アナザーストーリー:吟遊詩人3
咄嗟に飛び退く。
「あなたがこるんさんですね。」
黒いフードの女。
伸ばした左腕に留まった烏。
「誰……。」
身構えながら尋ねる。
だが、こるんは"吟遊詩人"。
魔法は歌によって発動させることができるが、今の状況では時間がかかる。
それに、これほど近くにいて全く気配を感じられない程の相手。
レベルが違う。
スキルの発動をすれば、おそらく即座にやられてしまうだろう。
「初めてまして、私はいな実。立花いな実です。こるんさん、あなたに少しお話があってお邪魔しました。」
殺される。
なぜかそう感じた。
理由は分からないが、辛うじて口が動かせる程度で、身体が小刻みに震えてうまく動かない。
「な、なんのよう……ですか。」
丁寧に話したつもりだ。
「ええ、雨乞いの儀に奉納する歌のことで少し。」
歌い手の私を殺そうと言うのか?
儀式をさせないためなら、たしかにそれが一番早い。私以外に歌を創る者はいない。
グツグツ、グツグツ
少し沈黙があると煮えるスープの音が響く。
カチッ
えっ……?誰かが突然火を止めた。