アナザーストーリー:司書5
それでも、時折、図書館には通っていた。
学園にいた頃は暇をもて余せば通い詰めていたものだが、卒業してからは仕事に忙殺されることも多かった。その中でも、司書の女性に会うために通い、受付に女性が座っている時には本も借りずに話し込むといった具合だった。なんとなく心が安らぐ。彼女にとって図書館はそんな場所になっていた。
ある時、図書館に来てみると、鍵は開いているのに女性の司書はいなかった。代わりに白髪の老人が座っており、女性の司書の行方を聴くと、知らないと言われてしまった。その日から一度も女性の司書には会っていない。
女性の司書がいなくなった次の日、彼女の家には差出人不明の荷物が届いた。入っていたのは"最初の一冊"、ヴァシーリー・グロスマン『人生と運命』。彼女は司書になることを決めた。
受付と一階の灯りを点け、椅子に身体を預けると彼女は本を手に取った。薄暗い灯りにぼんやりと照らされた長い廊下の始まりで、独り本を開く気分は、独特であった。しかし、我儘にも誰一人として居ない図書館では心は落ち着きにくかった。
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