アナザーストーリー:司書6
本を開いた途端、足元に気配を感じる。彼女が足元に目をやると、暗闇の向こうに猫が一匹顔を出した。実に自然に柔らかく滑るように外へ出てくる。厳密には猫ではなく体躯は小さいが猫の魔獣である。猫は彼女の足元を抜けると座って前足で顔を擦る。それはそれは美しい。
彼女が本に目を戻すと、猫は音もなく彼女の膝に飛び乗った。猫は、彼女が召喚した魔獣である。特性は猫と変わらないが、召喚した者の近くをそれほど離れることはない。今日、彼女はこの図書館で待ち人をしている。
先日のことだ。その日は焼けるような暑さの日で、一通の手紙が郵便受けに入っていた。あまりにも仰々しい装丁だったため、何事かと思い急ぎ封を切ると、中には学園の教師として週に二度ほど働いて欲しい旨の依頼書がある。何の力が自分に働いたのかと凝然と考えてみるも解らぬことだらけである。彼女は決して多忙なわけでも、言われた依頼を断るつもりもなかったが、頼まれごとを疎略にすることは彼女の主義に反して居る。こと教師であれば尚更である。
彼女は学園の代表者に会いたい旨を打診した。まもなくドアが開くだろう。
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