アナザーストーリー:招かれざる客1
凡戰之道、位欲嚴、政欲栗、力欲窕、氣欲閑、心欲一。
『司馬法』厳位第四の序文を再読した所で壁にある時計に目をやると、すでに丑の刻を回るところであった。古典を読むのは真に楽しい。何千年という時を経た書物で、しかも学の足りぬ考古的好事家の玩具でなく、現代に至っても興味を惹くもの、これが古典である。古典は単なる古書ではない。良き古典の語るところは、現代の活きた現実に触れる。私はいつも古典を読んで、驚くほどに現代を知るのである。
猫の夕餉を袂に置いてからしばらく、授業で使う教材となりうる『武経七書』を図書館の階下に探しに来たのであるが、見つけるやいなや久方振りの古典の味わいに時を忘れて浸ってしまっていたらしかった。夕餉を終えた猫もいつの間にか膝の上で丸くなっていた。
「そろそろ帰りましょうか。」
猫の背を撫でながら読みかけの『司馬法』に栞を挟み込む。