アナザーストーリー:蜜柑と酒場と珈琲と6
地面をぴょんぴょんと跳ねて家の壁に向かう。蜜柑が跳ねている光景は、周りから見れば面白いものかもしれないが、果樹族という種族にとっては普通の移動手段である。
「"クラフト"」
家の壁にスキルを使うと、そこには小さな穴が開いた。はなぽはその穴をくぐり、中へ入る。はなぽが潜り抜けると穴はすぐに塞がった。
これははなぽなりの防犯だ。侵入者などクロスフェードには、ほぼあり得ない話だが、用心に越したことはない。
はなぽは、蜜柑から再び人の姿に戻ると、棚の上からヤカンを取り出し、水を入れて火にかけた。はなぽは、火の魔法を使えないため、家では魔石を利用して火を起こすコンロという機械を使っている。プロムナードが開発した製品らしく、今ではほとんどの家庭に常設されている。
湯が沸くまで待つ間に、はなぽは飲み物を淹れる準備をした。
アビサルで流行している黒い飲み物。強い苦味はあるものの、獣人たちを興奮状態にすることで力を上げる効果があるとされるこの飲み物を、はなぽは以前、入手していた。