アナザーストーリー:蜜柑と酒場と珈琲と7
仕事が終わったら飲んでみようと思って準備していたのだ。
「たしか淹れ方が書かれていましたな。」
購入したときに貰った説明書を読みながら、準備をする。淹れるためには色々な道具がいるようだが、それらはすべて"クラフト"で事前に作成しておいた。
説明書の通りに耐熱性のカップの上に濾過装置にも似た器具を設置する。
まもなくお湯も沸くだろう。
「あら、いい香りね。」
突然部屋の中に声が響いた。
「送ってくれてありがと。御礼は今度ね。」
何が起きたのか分からず、呆然と眺めるはなぽを余所にその黒い服を着た女は投げキスをするような仕草を見せた。床にある影に向かってしているように見えた。
「辞退させて頂く。」
今度は別の声が響く。
影が少し動いたようにも見えた。
「そう?それは残念。あっ、帰りは自分で帰れるから大丈夫よ。」
女がそう言うと、床にあった影がまるで生きているかのようにどこかに消えた。