アナザーストーリー:蜜柑と酒場と珈琲と8
「お待たせしてしまってごめんなさいね。あなたが、はなぽさん?」
はなぽは、名前を呼ばれて我に返った。
「どちら様……ですかな?」
目の前に突然現れたのは、黒い服の女だ。ヒラヒラとしたスカートには赤い薔薇の花があしらわれている。長い黒髪と立ち姿は、まるで貴族の令嬢のようにも見える。
だからこそ、溢れすぎる違和感。
どうやってここに立ち入ったのか。
どうして自分のことを知っているのか。
疑問が溢れたことで、はなぽの思考は一時的に止まってしまった。
「私は、越黒リタ。闇姫Pって呼んでもらっても構わないわ。」
聞いたことのない名前だ。
少なくとも面識はない。
「闇姫P殿。いったいどんなご用け……。」
はなぽの目の前から闇姫Pが姿を消した。
はなぽは目を離したわけではなかった。
しかし、目の前に姿がない。
「あなた、寂しい目をしてるわね。」
後ろから突然声が聞こえた。
「っっっ!」
はなぽは声もあげず飛び退いた。
人型を解いて、蜜柑に戻る。その方が、狭い家の中では動きやすいからだ。