「転移の魔法みたいに便利な魔法を使えるようになりたいんだけど、魔法の種類とか使い方をもう少し詳しく勉強できたりするところ、ないかな?」
分析の魔法でもあれば、それに越したことはないのだが。
「TOMOKI++さんが初心者用の魔法の本をお渡ししたとは聞いていますが、解析専用の魔法や、もっと高度な魔法となると。」
魔法を覚えるのって意外と大変なんだな。
「そうだ。クロスフェードの学園には大きな図書館があるんですよ。そこなら魔法に関する書物もたくさんあるはずです。」
図書館か。
「ドイルさん、たしか学園に入りたいって言ってましたよね?それなら、図書館も使えますし、優秀な司書さんがいらっしゃいますから。」
さすが、学園。勉学のための設備はわりと期待できそうだ。
「うん、まきエルさんか、桐エルさんにお願いして図書館の地下を使えるようにしておいてもらおうかな。」
ミコエルがぶつぶつ言っている。しかも、聞いたことがありそうな名前が出てきている。
#ボカロ丼異世界ファンタジー
ステータスにレベルが設定されているのは、それが理由か。
「そうです。暴走しなくなります。ただ、どのくらいまで上がればいいのか、目安は分からないんですよ。」
それでも少なくとも希望が見えた。機会があれば、隊長さんには伝えてあげられる。
「十分だよ。そうそう、さっきの話だけど、春沢翔兎、マキエイの2人は魔族じゃないの?」
魔方陣を狙っていたなら魔族の可能性も否定はできない。サーチでは、春沢翔兎さんは獣人族だったはずだが、何かの理由で隠されていたならどうしようもない。
「彼らはちがいます。春沢翔兎さんと、そら……マキエイさんは、魔族ではありません。獣人族と海獣族ですね。」
あの2人は魔族じゃないのか。となると、別の目的があったわけだな。なるほど、わからん。
「魔族の力をキャッチしたら、こちらからもお伝えするようにしますね。もうあまり時間もないのですけど、他に何か聞いておきたいこととか。」
聞いておきたいことか。
そうだ。
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そういえば……
「俺たち、少し前に襲われたんだけど、ミコエルは知ってる?」
例の2人の話を確認しておこう。
「はい。少しだけですが、見させてもらいました。"成レ果テ"の暴走は危険ですから。」
すでに把握されているようだ。
「隊長さんのこと、ご存知なんですね。」
あのスキルはたしかに危なかった。まさか毒の沼を生み出すようなスキルまであるなんて。
「"成レ果テ"は、ドイルさんの"トランスモーフ"と同じレアスキル。青き"創世のスキル"の1つですから。」
なんだって。あれも神や天使クラスの力なのか。
そうか、だから……。
「もしかして、隊長さんが暴走するのはそれが理由?」
魔族には関係ないが、ここは聞いておかなければならない。
「そうです。レベルが足りないまま"創世のスキル"を使うと、強い力が暴走します。」
レベルが足りないまま……つまり。
「じゃあ、レベルが上がれば、暴走は?」
「暗黒大陸への壁を越えた者たちは、少なくとも2人。ただ、私たちが捕捉しようとした時にはもうすでに姿を眩ましたあとでした。」
つまり、複数人いることは分かっているけど、どんな相手なのかすら掴めてないということか。
「ですが、魔族になった者たちも、元はレミルメリカにいた種族。私たちは彼らを見捨てることはできません。」
こういうところは、さすが大天使。ミコエル教の信者が多いのも頷ける。
「できる限りやってみますよ。俺もレミルメリカのこと好きになれそうなんで。」
少なくとも、はなぽさんやタダトモさんと一緒に小さな冒険をしたことは俺の中でとても楽しい時間だった。
「ありがとうございます。私たちもできる限りのお手伝いはしますから。」
介入できる範囲で最大限の尽力を得られるなら、それは願ってもないことだ。
「私からのお願いは、これだけです。魔族の存在をドイルさんに伝えておかないと、何かあってからでは困りますから。」
魔族と契約、契約か。元々、戦略ゲーより力で解決みたいなゲームが好きだったからな。
つい誰か参謀役が欲しいと思ってしまう。
悪い癖だ。
「他に魔族だって分かる特徴はないの?耳が生えてるとか、牙があるとか。」
今聞いた話だと好戦的だというが、何か特徴でもなければ下手をすると向こうから挑んでこなければわからないことになってしまう。
「一部の魔族は魔力の波長で見抜くことができるのですが、それは非戦闘系の魔族だけで……。」
戦闘系との違いはわからないが、基本的に魔族は見抜けないのか。
魔力の波長なんてものがあるのは初めて知ったが、そこは今は気にしちゃダメだ。
「"サーチ"で魔族って検索したら?」
マキエイさんとの戦いで、銃をサーチすることができたくらいだからな。
「何も対策していない魔族なら引っかかるかもしれないですけど、う〜ん。」
どうやらサーチでも本当に引っかかるかどうかは怪しいみたいだな。試す価値はあるかもしれないが、相手のほうが一枚も二枚も上手ならどうにもならないだろう。
「じゃあ、ミコエルやTOMOKI++さんたちは、魔族の存在をどのくらい把握してるの?」
せめて、いま分かっていることだけでも教えてほしいところだ。
「何があったのかわかりませんが、私たちが観測した魔族の力は、明らかに以前よりも強くなっています。天使や神にも届きうる力……そんなものがぶつかれば、世界は、レミルメリカはもたないかもしれません。」
ただでさえ、チートな力だからな。それに届くってどんなレベルだよ。
「責任重大ですね。」
勇者になれるとか思ってごめんなさい。
「こんなことを頼んでしまってごめんなさい。それに……魔族は、暗黒大陸で私たちの残滓を取り込みましたが、見た目はレミルメリカの人たちと同じです。人間かもしれないし、獣人族のような動物さんかもしれません。見た目では分からず、スキルや魔法を使った時に、明らかにこの世界の理を捻じ曲げるものであった時、魔族であることが分かるんです。」
ミコエルのことばが確かなら、この世界にはすでに魔族が大量に侵入してるかもしれないってことじゃないか。
そういえばボカロ丼に入ったころ、複数のアカウントを切り替えながら偏在してる人がいたな。
名前を聞いたら思い出すかもしれないが、忘れた。誰だっけ?
「魔族さんたちは好戦的ですから、バシッとやっちゃってもらってもいいですけど。」
そこは物理で殴るのか。
「できたら、その、契約を結んでもらえると助かります。」
契約ってことは……。
「"トランスモーフ"?」
しかし、この契約書は、相手からの承認がないと契約ができない形になっている。
「そうです。ドイルさんのスキルで、皆さんと契約を結んでください。契約書は信頼の証。それがあれば、魔族さんたちを止めることができるはずです。」
魔族と契約っていったい……。
「えっと、もし契約できなかったら?」
どうなるんだろう。
「再び、私やTOMOKI++さん、天使や神と魔族の大きな戦争が起こります。」
は?なにそれ、こわい。
俺がチート能力で、勇者になって魔族を討伐していくって流れだ。
まちがいない。
ミコエルは俺を何となく転生させたと言っていたが、"トランスモーフ"を使えるから勇者にしようと思い直したのでは?
やったぞ、俺。
だめだ、顔がにやけそうだ。
ここはシリアスに、シリアスに。
「ドイルさん、私とTOMOKI++さんからのお願いです。」
キタコレ!この流れだよ、俺が異世界転生で求めていたのは。
「みんなと仲良くなってください!」
前回もそうだったが、なぜかいつも思ったのと違っている。
「魔族を倒すんじゃないの?」
世界に介入してくる敵のはずなのではなかったのか。
「魔族さんたちもレミルメリカの住人ですからね〜。」
火刑とか言ってたのに、どうして突然平和主義みたいなことを言い出すんだ。
さっきまでの暗黒大陸の説明なら、確実に倒すべき相手じゃないのか?
「倒さずに仲良くなるって、どうしたらいいの?魔族って、そんなに友好的なイメージないんだけど。」
むしろ一方的に襲われる予感しかしない。
「そうです。そして、こちら側から壁を越え、暗黒大陸に行った者たちは、人ではなくなります。もちろん、獣や鳥でもなくなります。」
たしか、俺はステータスでは人族のはずだ。壁を越えるのは、種族すら変えてしまう行為なのか?
「壁を超えた者は魔族と呼ばれる存在になります。実は暗黒大陸には、未だに私たちの歪みの力が残っていて……それを取り込み、新たな力を得た者がこの世界に戻ってきてしまったのです。」
魔族……悪魔の力を手に入れた種族。
神や天使に反旗を翻す存在ってところか。
「数名の魔族によって、かつてこのレミルメリカでは、大きな戦争が起こりました。」
詳しくは知らないが、その話は耳にしたような気がする。
「魔族の力、凄そうですね。」
明らかに世界を混乱させるほどの力だ。
いや、でも、待てよ。
わざわざミコエルが俺のところに降臨して魔族のことを伝える。
しかも、明らかに敵として存在する奴らだ。
とすれば、これは……
「それは一つの大きな大陸となって、世界に出現してしまいました。それが、暗黒大陸。セレスティア、プロムナードを含めたレミルメリカにある6つの国のどこにも属さず、壁の向こう側にある暗闇の世界です。」
7つ目の国、暗黒大陸?
はなぽさんやタダトモさんの話にも出てこなかった国の名前だ。
「そんな場所がレミルメリカにあったなんて。」
名前からしてヤバそうな場所じゃないか。
「私たちはかつて暗黒大陸とレミルメリカのほかの国の間に壁をつくりました。暗黒大陸は本来、誰も踏み入れることのできない大地のはずだったのです。でも、いつしか壁を越える力を持った者たちが現れました。」
調停者たちがつくった壁を越えるくらい強い存在が現れた?大天使ミコエルやTOMOKI++さんと同等、いやそれ以上の力の持ち主だったらまさに世界の危機だ。
「壁のこちら側、今俺たちがいる世界から向こう側に行った者たちが出たと。」
随分と物好きもいるものだ。わざわざ神に逆らうような真似をしてまで、壁を越える理由なんて俺には思い浮かばない。
「いや、何も分かりませんよ。アニメや小説じゃないんですから、そこはちゃんと教えてくれないと。」
本当に何も伝わらない。
「察しがわるい男の子はモテませんよ?」
かくかくしかじかを理解できないとモテない世界線なら、異世界でも俺には一生縁がないぞ。
「実は……この世界に介入する者たちが現れました。」
大天使ミコエルは、いきなり真面目な口調で語り出した。ギャップについていけなくなりそうなところをグッと堪える。
「私やTOMOKI++さんのような調停者は世界を見守ることはできますが、基本的に介入を許されていません。」
俺を転生させたのは介入にならないのか?というツッコミは野暮だな、やめておこう。
「私たちはかつて強大な力を使って世界を創りました。そして、一部の神は人間たちと共に暮らすことを選んだ。これは以前にもお話したかと思います。」
うん。受肉の話は聞いた記憶がある。
「しかし、強すぎる私たちの力は、この世界を創る時、ある歪みを生んでしまいました。」
歪みか。ニコニコ動画のユーザーだった俺にはネタにすら聞こえ……だめだ、集中しろ。
#ボカロ丼異世界ファンタジー
「どうしたんですか?それにここは……。」
よく見ると、周りには誰もいない。
「転移にちょっとだけ割り込みさせてもらいました。時間がないので、詳しくはまた今度ということで。」
どうやら時間制限があるらしい。
しかし、転移に介入までできるとか、なんでもありだな、この天使。
「それで、何かあったんですか?」
RPGでもこういう謎のパワーによる現象はよくあることだ。そういうものだと納得するしかない。
「あれ?終わりですか?もう少し食いついてくると思ってたんですけど……。」
時間がないと言ったのはそっちなのに一体なにを期待しているんだ?
「ドイルさんは火刑にします。」
こわっ!いきなりの死刑宣告じゃねえか。
「ミコエルさん、時間ないんじゃなかったんですか……。」
ここは冷静なツッコミを心がけよう。
「そうなんですよぅ。ドイルさん、実はかくかくしかじかでして。」
かくかくしかじか、人生で初めて会話の中で使われるのが大天使との会話とは、人生って何があるか分からないものだな。
#ボカロ丼異世界ファンタジー
転移魔法は構築が難しいのか。何とか記録に残して解析とかできないかな?
ん〜サーチじゃどうにもならないしな。
魔法が発動していくのを見ながら、俺は魔法を解析する方法を知りたいと思った。
学園でそういう授業とかあるといいな。
そんなことを考えている内に、小金井ささらの魔法が発動した。
目の前が一瞬で白くなり、浮遊感が体を包む。痛みはない。よく見ると足元の魔法陣が消えている。
「………イル…ん。」
えっ?何か呼ばれた?
「ド………さん。」
どこかで聞いたことのある声だ。
声がだんだん近づいてくる。
どこかで聞いたことのある声だ。
声がだんだん近づいてくる。
「ドイルさ〜ん。」
そうだ。この声は。
「ミコエル様!」
周りに何もない光の世界で、目の前に大天使ミコエルが降臨した。
「ミコだよーーーーー!」
いつも通りのテンション。こうして、俺は転移の真っ最中に再び大天使ミコエルと再会した。
最初は薄かった影のようなものが姿を変えていくと、そこにはもう一人の小金井ささらが出現した。腕には同じようにユキちゃんと呼ばれている人形を抱いている。
「ユキちゃんかわいい。」
小金井ささらがそう言うと、さらに別の影が身体から分離していく。
「かわいいが、いっぱい。」
最終的に4人の小金井ささらが出現した。
よく見ると、4人はそれぞれバラバラの動きをしている。どういうスキルなのかは分からないが、分身をつくる能力らしい。
少し前に戦った春沢翔兎は、機械の人形を生み出していたが、それとは異なり、自分自身を分身させるスキル。
「ささらちゃん、サクッと転移頼むわ。」
kentax団長の一言で、小金井ささらが全員を取り囲むように部屋の四隅に立った。
「転移魔法"ディメンションズゲート"」
4人の小金井ささらが同時に魔法を唱えた。
「ふむふむ、1人で発動すると構築の難しい転移魔法を、4人に分かれることで負担を分散したというわけですね。」
泡麦ひえが感心したような声を漏らす。
おそらく国の重要な役職を担う人たちが集められているのだろう。kentax団長は軽く話しているように見えるが、団員たちの雰囲気からそうではないと感じられる。
「さあ、皆さん、そろそろクロスフェードに戻りましょう。」
泡麦ひえが手を叩いて言葉を発した。
「団長、ここは私が。」
小金井ささらが名乗り出た。
「転移の魔法は魔力消費が多いけど、大丈夫?」
泡麦ひえの心配をよそに小金井ささらはやる気のようだ。
「ユキちゃんならできます。」
どういうことなんだ、魔法を使うのはユキちゃんなのか?
「それなら任せるわ。」
泡麦ひえさん、普通に流してるけど、それでいいのか?kentax団長も少し不思議そうな顔をしている。
「スキル発動"授業参観"」
授業参観!?さすがに驚いて声がでそうになったがグッと堪える。いったいどんなスキルが……と思っていると、小金井ささらの身体から影のようなものが分離するのが見えた。
毎回、称号を頂いている話は出てくるのだから、おそらくこの自己紹介がデフォルトなのだろう。ボカロPとは言わないんだな、なんて心の中で思っていたら向こうから声がかかった。
「私は泡麦ひえ。魔法師団の団長をしています。クリスエ……いえ、内政官の勅命を受けて、お迎えにあがりました。」
内政官。さっきクリスエスと言っていた。
ボカロ丼では"火刑ミコエル"で知られている獣のようなアイコンの人だったはずだ。社蓄って言ってた記憶があるから、もしボカロ丼が反映されているなら、レミルメリカでも忙しくしているに違いない。
「内政官の勅命ってのは、随分と物々しいな。なんかあったのか?」
kentax団長の声は少しトーンが下がっている。真面目な話なのかもしれない。
「我々団長以下、情報官、外交官、内政官が召集されました。」
泡麦ひえの言葉に団員たちの雰囲気も少し変わった。
「そいつはなかなかでかい話だ。これは早く帰らねえと怒られちまうな。」
ショートカットの髪の毛、ボーイッシュな雰囲気を感じる整った顔立ち、魔法師団のローブをそつなく着こなし、手には光玉をあしらった杖。剣闘師団のkentax団長よりもさらに若く見える。
最も特徴的なのは、首にかけているヘッドホンによく似たものだ。
あれ、猫耳ついてるよな?
「なんだなんだ、俺のことがそんなに心配だったのか?」
kentax団長は楽しそうだ。
「ちがいます。私は団員たちが心配だったんです。あなたのような雑な采配をする人にこき使われてはたまったものではありません。」
魔法師団の団長のツッコミはなかなか厳しいものがあるようだ。
「おや、はじめましての方がいらっしゃいますね。」
魔法師団の団長はこちらに気がついたようだ。目があってしまった。
「はじめまして。ドイルと言います。」
女性と目を合わせるのに慣れていない俺は、自己紹介をしながら頭を軽く下げて目線を回避した。
「私ははなぽ、わんわんPの称号を頂いています。」
はなぽさんも俺に続いた。
「タダトモです。ダンテPの称号を頂いています。」
「後続には徳皆無もいるから、心配ない。よだか、ワンマイ、お前たちは後続と一緒に戻って来てくれ。魔法師団からは4名ほど残していく。」
そして、俺たちは石の祠の中に入った。入り口や見た目に反して、中はとても広い空洞のようになっている。
「空間魔法の一種ですよ。こういった部屋のようなものを維持する魔道具がありましてな。お高いですが……。」
はなぽさんが小声で教えてくれた。
魔法ってなんでもありだよな。
足元に目をやると、赤色の魔法陣が描かれているのが分かった。
「これは、転移の?」
ごーぶすさんがあの時描いていたものによく似ている。誰に話したわけでもなかったが、返事が返ってきた。
「そうです。これは転移の魔方陣。」
あれ?誰の声だ?
聞いたことのない女性の声だったような。
「団長。」
小金井ささらが団長と呼んだ。つまり……
「よぅ、団長さん。どうしたんだい?」
kentaxも目の前の女性を団長と呼んでいる。
「あまりにも遅いので、クリスエスさんに頼まれて迎えに来ただけです。」
泡麦ひえ、彼女こそ魔法師団の団長その人であった。
「よぅし、俺たちも出発だ。」
kentax団長の号令で剣闘師団、魔法師団が動き出す。人数は全体で30人くらいいるらしいが、先遣隊として先に出発したメンバーと、後詰めのメンバーに別れているので、実際は10人程度のグループだ。
俺とタダトモさん、はなぽさんの3人はkentax団長、よだかさん、小金井ささらさん、one my self さんもいる中心の隊に合流している。
30分ほど歩くと石造りの祠のようなものがあり、石の扉が閉ざされている。先遣隊共々、俺たちはその前に立った。
「ここは私が。」
前に出たのは、小金井ささらさんだ。
前に立つと、扉に四角い枠のようなものが浮き上がってきた。見た感じ、パスワード式のようだ。
「ユキちゃん、パスワード押してね。」
ささらさんが人形の指をもってパスワードを押していく。わりと桁数があるな。
画面が見えないため、記号なのか数字なのかもよく分からない。入力を終えると石の扉が音を立てて開き始めた。
アナザーストーリー:空欄5
ノヒトは自分のミスだろうと思った。後は、顧問Pに任せれば問題はない。
ノヒトは、越黒リタの書類をファイルに戻し、会議室の電気を消すと部屋へと戻っていった。
同時刻。
顧問Pは部屋に向かって歩きながら、闇姫Pにメッセージを飛ばしていた。
「わざと出身地を書かなかったな?」
顧問Pの声はいたって冷静だ。
「あら?バレた?」
それに対して、闇姫Pはふざけたような口調で話してくる。
「まったく、当然だろう。そのせいで無駄にスキルを使ってしまった。これは貸しにしておくからな。」
こういったことはよくあるのだろう。
顧問Pはあまり気にしていない様子だ。
「負債が溜まってるから、そろそろ返すようにしま〜す。」
「これで入学は決まったようなものだが、あとは知らん。ではな。」
闇姫Pがひどいと言っている声が切る直前に聞こえたような気がしたが、無視しておこう。
「さて、学生たちの歓迎の準備をしなければ。」
クロスフェードにある学園は、あらゆる国の権力が及ばない世界。未だそこに目に見えぬ悪意があることを知る者はいない。