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アナザーストーリー:蜜柑と酒場と珈琲と4 

「ドイル……転生者ということですか。神様たちは一体何を考えていらっしゃるのか。やれやれ、少し調べておきますか。」

しおまねきはそういうと、掃除を中断して店の中へと入って行った。

はなぽには、しおまねきの声は届いていない。自宅へはまだ少し距離がある。

途中、食材をいくつか買い込み、夕食の準備を整えた。遠征するためにある程度食材を使い切っていたためだ。

はなぽは、美味しい食べ物に目がない。実は密かに美食の趣味を持っていた。一部の者にはその話も知られているのだが、この話はまた別の機会にするとしよう。

15分程歩くと、クロスフェードの中心街を抜ける。城壁の内側ではあるものの、中心街を抜けると、そこには食物を栽培するための広い敷地や、食用の動物たちを飼うための場所もある。

そのあたりには一軒家が立ち並んでいる。そうは言っても、はなぽの家があるこのあたりは景観維持やら何やらで保護されているらしく、これ以上の家が建てられることはなさそうだ。

アナザーストーリー:蜜柑と酒場と珈琲と3 

「もうこりごりですな。そういえば、今年の学園の試験はどのくらいの受験者がいるとか噂は聞いておられますかな?」

はなぽの脳裏にふとドイルの顔が浮かぶ。

「例年とさほど変わらないと耳にしましたが、今年はリッカやプロムナード、アビサルからも受験者が集まっていると聞きました。なかなか強者揃いみたいで、学園側も新しい教師の補充をされたとか。」

さすが、しおまねきは情報通だ。

「先ほど話したドイル殿も学園を受けられるそうなので、合格したらここにも連れて来なければいけませんな。」

はなぽは、ドイルならば合格するとなぜか信じている様子だった。"あの力"を目の前にすればそうなるのかもしれない。

「合格祝いのパーティはぜひうちの酒場で。腕によりをかけてお料理を提供します。」

しおまねきは、ここぞというポイントでのセールスを忘れない。

「ぜひ、お願いしますぞ。さて、それでは私はこれで。」

はなぽは、しおまねきに挨拶をするとその場を立ち去って自宅への道のりを歩き出した。

アナザーストーリー:蜜柑と酒場と珈琲と2 

酒場"チャンネー"

豊富な酒の種類はもちろん、なぜかマスターであるしおまねきが作る裏メニュー"プリン"という黄色い食べ物が反響を呼び、常連のお客さんや女性たちがそれを求めて集まることでも知られている。

「ミコエル神殿の修復工事は無事に終わられたのですね。」

はなぽは、仕事の前後によくこの酒場を訪れる。ミコエル神殿に赴く前にも立ち寄ってマスターには工事の話をしていた。

「つい先ほど帰って来たばかりですぞ。いやはや、今回は大変でした。」

酒場の前を掃除しているしおまねきと、はなぽは立ち話をした。曰く、まるで冒険者のような旅だったと。

しばらく立ち話を続けた後、はなぽは自宅へ帰る途中だったことを思い出す。

「ライチョー隊長Pの暴走に、剣闘師団と魔法師団との合流、そして、謎の若者。はなぽさん、冒険者に転職なされては?」

話を聞いたしおまねきが笑いながらはなぽに言う。掃除の手は見事に止まっているようだ。

アナザーストーリー:蜜柑と酒場と珈琲と1 

魔物ハンター・冒険者協会は、試練の島を有するシルバーケープに本部を置く、専門機関である。レミルメリカにあるすべての国から資金を得て運営されていることもあり、その安定さゆえに、学園を卒業した者の中には毎年一定数は協会への就職を希望するほどだ。そして、なぜか各支部の協会のことをいつしか"ギルド"と呼ぶ者たちが現れた。魔物ハンターたちの一部から広まったと呼ばれるこの呼び方はいつのまにか定着し、最近では、協会とギルドは同じ意味を持つものとして認知されつつある。

はなぽ、わんわんPの称号をもつ彼は、ミコエル神殿の修復工事完了の報告を協会に済ませ、大通りから少し離れた場所にある自宅へと向かっていた。

「はなぽさん、もうお帰りになっていましたか。」

酒場の前を通ると突然声をかけられた。

「これはこれは、しおまねき殿。」

しおまねきは、この酒場のマスターだ。この酒場は、セレスティアの名所の一つと言っても良いくらい、人が集う。

挨拶を返す。

「俺はmar、発行所の主任だ。そして、ここはクロスフェードの街だよ。」

さすがに知っている。いや、今の言い方、どこかのRPGで聞いたような。

「marさんは、この街に初めて来た人たちに町のことを説明する案内係りなんかもされているので、街の名前を言うのが口ぐせみたいになってるんですよ。」

タダトモさんが説明してくれた。そんな役職もあるのか。

「てことは、要件はそこのドイルさんの市民証の発行だな。少し待ってくれ。今、もう1人、客が来てるんだ。」

察しがいい。

俺たちが入った時から先にいた男がそこに立っている。

「いや〜皆さん、すいませんね。」

坊主頭に赤い縁の眼鏡をかけた男。笑顔が印象的というか、むしろ少し怖いくらいだ。

目力がすごい。
待てよ、この顔、どこかで見たぞ?

「あなたは……。」

タダトモさんが不思議そうな顔で見ている。知り合いじゃないのか。

「よくぞ聞いてくれました!シオコです。お見知り置きを。ヒャクブンノイチPの称号をもつ、道化師兼冒険者でございます。」

小金井ささらさんはため息をついた。
突然起こされることも多いのかもしれない。

最近、魔物の動きが活性化していると言っていたからな……。

「ドイルさん、あの角を曲がったところです。」

通りを少し進んだところにまた曲がるところがあった。俺たち以外にも曲がっていく人が数名見えた。

タダトモさんに先導されて角を曲がると、路地の先に看板がかけられている場所があるのが見えた。

看板の文字は……「発行所」になっている。

木彫りの簡素なドアが目の前にあり、中からは話し声も聞こえている。

「こんにちは〜。」

タダトモさんが中に入る。

「おう、タダトモさん。」

入ってすぐに声をかけてきたのは、1人の男性だった。

「marさん、お久しぶりです。」

marと呼ばれた男性は、気さくなおじさんという雰囲気だ。

俺と小金井ささらさんもタダトモさんについて中に入る。

「ささらちゃんまで一緒かい。珍しい組み合わせだな。おや?見たことない顔がいるな。」

marさんは俺の方を見て言った

「はじめまして、ドイルと言います。」

タダトモさんの説明を聞きながら、横道を抜けると、縦に長い通りに出た。大通りに比べて人は少ないが、花屋が見えたり、あれは雑貨店だろうか?先ほどよりも生活感が溢れている。

人が住んでいるのだろう、視点を上にやると窓の内側に花を飾っている家も見える。

一軒家は場所を取るから、こうやってマンションのようなところに住んでいる。わからなくもない理由だ。たしか、元いた世界ではヨーロッパの主要都市ではそんな家の作りになっていたはずだ。

「ユキちゃん専用の一軒家欲しい。」

家が欲しい理由がすごい。

「ささらさんたち、魔法師団の人も、この辺りに住んでいるんですか?」

俺は雑談がてら聞いてみることにした。

「魔法師団には詰所の近くに住む場所が提供されてる。団長、ユキちゃんと私もそこ。」

剣闘師団や魔法師団は住む場所も決まっているらしい。

「待遇がすごいですね。」

国を守る役職なのだからそのくらいは当然なのかもしれない。

「でも、夜に突然起こされたりするから、あまりよくない。」

ああ、有事の際というやつか。

「ユキちゃん、かわいい。」

横で小金井ささらさんがよくわからない同意の仕方をしていたが、うん、これはそういうものだと理解しておこう。あれ?俺は今、どうして「ユキちゃん、かわいい」が同意だって分かったんだ?

俺たちはタダトモさんの先導で歩き出した。

大通りは行き交う人も多く、店も豊富だ。宿屋、道具屋、武器屋、色々と並んでいて目移りする。洋服屋の前では、小金井ささらさんがふいに立ち止まって「ユキちゃんの新しい服」と言っていたりもした。

どうやら道具屋と武器屋はこの街にはここしかないらしく、わりと有名な店のようだ。別に工房なんかもあるらしい。

ボカロ丼にも製作を生業にしている人が何人かいたな。

少し歩くとタダトモさんが、大通りを避ける横道に案内してくれた。大通りを横にそれると、人通りは少し減る。

クロスフェードの街の特徴なのだろうか。店の上階が人の住むマンションのようになっているところも多いようだ。

「クロスフェードの街中では一軒家はほぼありませんよ。クロスフェードの郊外には住宅地もありますけど、みんな、便利なところに住みたいですから。」

「おし、じゃあ、俺とひえ団長はもう行くからな。また会おう。」

kentax団長はそう言うと大通りを真っ直ぐに歩き出した。

「次にお会いする時を楽しみにしています。それでは、近いうちに。」

近いうちに?また会うことが決まっているかのような口ぶりだ。

泡麦ひえ団長もkentax団長に少し遅れて歩き出した。残されたのは、はなぽさんとタダトモさん、そして小金井ささらさん。

「私も一度、ギルドに行って報告をしなければなりませんので、ここでお別れですな。タダトモさんの分も私が申請しておきましょう。」

どうやらはなぽさんには別の仕事があるようだ。

「よろしくお願いします、はなぽさん。僕は次の仕事は近くの森らしいので、また今度ですね。」

タダトモさんとはなぽさんもいつも一緒に仕事をしているわけではないようだ。

「それでは、私はこれで。」

はなぽさんも歩いて行ってしまった。また会えることを祈ることにしよう。

「僕たちも行きましょうか。」

はなぽさんの背を見送りながらタダトモさんが出発を促す。

「そうですね。ここは、城門を入ってすぐの広場なんですけど、目の前の大通りをまっすぐ行くとノルド城に着きます。学園は城の近くにあるので受験を受けるときはそこに行きます。発行所は大通りの途中を曲がったところにありますね。」

どうやら街の構造は、大通りを中心に作られているみたいだ。"マップ"と"サーチ"があれば見つけることは可能だろうが、実際に聞いておくとおかないでは勝手がちがう。

「発行所に行ってから、物件探しですかね。」

不動産屋とかがあるといいのだが。

「空き家はたくさんありますけど、立地の良いところは家賃がかかりますから。でも、学園に近いのは便利ですよ。寮だと門限とかありますし。」

タダトモさんのように外ですでに仕事をしているなら、門限とかがあると厳しそうだな。

「ドイルさん、できましたよ。」

泡麦ひえ団長が巻物状になった紙を手渡してくれた。おお、重要な書類っぽい。

「これがあれば市民証は問題ないでしょう。あとのことは、ささらさんたちにお任せします。」

どうやら団長たちとはここで一時のお別れのようだ。

「"クラフト"」

はなぽさんがスキルを発動すると、手の中にある毛皮が光りの中で姿を変えていく。

短い時間で猿の毛皮は、一枚の紙に変わった。羊皮紙のような紙だ。

「おっ、腕は落ちてねえみたいだな、はなぼさん。」

kentax団長は少しふざけたような言い方をしながら、出来上がった紙を見ている。

「はなぽさん、お預かりしても?」

泡麦ひえ団長が、紙を受け取る。

「それでは失礼して。私は記述する。"シール"」

"シール"、刻印の魔法だ。特定の物質に文字を記入する初級の魔法だが、たしか文字が書けない物質には効果がない。あとは、人や動物など生きている物にも文字は書けない。手紙を書く時などに使用される魔法だと理解している。

泡麦ひえ団長の魔法が発動すると、紙に文字が浮かび上がって行く。

「団長たちの推薦状があるなら、市民証はほぼ永住権をもらえますよ、よかったですね、ドイルさん。」

タダトモさんが話かけてきた。そんなに効力があるのか、推薦状。

「発行所ってどこにあるんです?」

街の構造がよく分からない。

そういえば、スキルで分身した時、ユキちゃんってどうなっていたんだ?同じように分身していたのか?よく見ていなかった。

次があれば確認しよう。

「そ、そうですか。うん、それなら魔法師団から推薦状を出しましょう。それがあれば、市民証は簡単に取れるはずです。」

あ、泡麦ひえ団長、ちょっと引いてる。

「ああ、推薦状なら俺も連名にしてやるよ。隊長からのお墨付きもあるからな。」

団長2人からの推薦は願ってもないことだ。

「すぐに作成しますから、少しお待ちください。はなぽさん、"クラフト"をお願いできますか?」

そうか。紙すら作ることができるのか。

「承知しました。素材はございますかな?」

紙の素材なら……木片か?

「こいつを使ってくれ。」

kentax団長が出したのは、動物の皮のようなものだった。木片じゃないのか。

「こいつは猿の毛皮さ。」

俺たちと会う前に倒したっていう猿の魔物か。魔物の皮ってはげるんだな。

「材質に問題はなさそうですな。」

はなぽさんは、kentax団長から毛皮を受け取ると、感触を確かめた。

これ、わりとヤバイのでは?

「あ〜市民証ないみたいです。」

俺は封筒をアイテムボックスにしまう。

「それならすぐに市民証の発行所に行くほうがいいでしょう。」

泡麦ひえ団長の言う通りだ。

「僕が案内しますよ。」

タダトモさんが軽く手を上げながら名乗りをあげる。

「ユキちゃんも行きたいって言ってる。」

なぜか小金井ささらさんも手を挙げて名乗りをあげた。

「あ〜俺も行ってやりたいが、集まりは無視できねえからな。よだかでもいりゃあ、ついて行かせるんだが。」

kentax団長は頭をかいている。

「ささらさんが、ついていってあげるなんて珍しいこともありますね。」

泡麦ひえ団長はどうやら小金井ささらさんが着いていくと言ったことに驚いているようだ。たしかに、ついてくる理由がないな。

「ユキちゃんが行きたいって言ってる。」

ユキちゃんの髪の毛を整えながら、小金井ささらさんはそう言った。

「学園に入れば寮もありますけど、わりと家を借りてる人も多いですからね。」

タダトモさんも寮には入っていないらしい。

「学園に通うつもりなんだろ?隊長を止めれるくらいの実力があるなら試験なんて楽勝だろうし、家借りたほうが早いんじゃねえか?」

受かる前提なら借りてもいいかもしれないが、試験がよく分かってないからな。

「そうですね。私も家を借りても良いと思います。」

泡麦ひえ団長からも勧められてしまった。
不動産屋にでも行けばいいのか?

「しかし、家を借りるにしても、寮に入るにしても、まずは市民証がいりますな。」

滞在許可証とかあるの?
えっ、さっきの受験票に入ってる?

はなぽさんの言葉を確認するため、俺はアイテムボックスを開く。ミコエルからもらった封筒は、ちゃんと収納されていた。

ご丁寧に「受験票」と表示されている。

俺は封筒を取り出した。

「おや、それは……。」

はなぽさんの反応をよそに俺は封筒を開けて中を見た。入っているのは、受験票と説明の書かれた紙が一枚だった。

市民証は入ってない。

ノルドか。あそこにファンド王……ぐへへPがいるんだな。会う機会があることを楽しみにしていよう。ごーぶす、ライチョー隊長Pのところへ向かう途中、はなぽさんたちからセレスティアの話しを聞くことができた。

最初に聞いた時は驚いたが、セレスティアはぐへへPが王様として治める国のようだ。

王妃の名はヲキチ。

2人とも、ボカロ丼にいたメンバーだ。試される大地にいると、ローカルタイムラインで話していたのは見たことがあるし、青い鳥でも付き合っていることは察していた。

しかし、まさか、あの2人が王と王妃になっているとは最初に聞いた時はどうしようかと思った。でも、リアルで会ったことはないし、顔は会っても分からないな。

「大きなお城ですね。」

西洋の古城を思い出す。ノイ……なんとかかんとかだ、うん。

「俺たちは城に向かうが、お前たちはどうするんだ?」

kentax団長が聞いてくる。

「とりあえず宿屋とかを探さないと……。」

俺はこのままだと野宿になる。

この様子を見ると誰も大天使ミコエルに会ったりしていないのだろう。

街についたらタダトモさんに学園まで案内でもしてもらうか?でも、その前に住む家も着替えもないしな。

学園への入学、魔族との契約、衣食住の確保、幸いTOMOKI++さんの配慮で、お金には当面困らない。

軽く挙げてみただけで、しばらくやることは山積みだ。

そして……少し歩くと城門の前にたどり着いた。

門の前には兵士らしき者たちが立っていたが、剣闘師団と魔法師団の団長たちが揃っていては、頭を下げて通行を許可せざるをえなかったようだ。逆に、兵士の一人は泡麦ひえ団長にサインを求めていた。

俺たちはすんなりと壁の内側に入ることができた。壁の中には、とてつもなく広い街が広がっていた。

多くの人が行き交い、一見しただけでも多様な種族が目に入る。目線の先にはわりと距離はありそうだが、大きな城が建っている。

「あれが王城"ノルド"。王の住まう場所。」

小金井ささらさんが、城のほうを見ている俺に教えてくれた。

「そうですね、初めてです。ということはあの壁が。」

俺は周りの観察に余念がない。

「そうです。あれがクロスフェードを守る城壁。」

泡麦ひえ団長だ。横から見ると猫耳のヘッドホンが可愛らしい。

「これから俺とひえさんは、ちっとばかし忙しくなりそうだから、お前ら3人の相手はできねえけど、剣闘師団の詰所ならいつでも遊びに来て構わねえからな。」

剣闘師団に遊びに行くやつなんているのか?

「ダメですよ、kentax団長は若手の団員で憂さ晴らしをしてるって有名ですから。会議の後なんかに行ったらサンドバッグになります。」

泡麦ひえ団長から横槍が突きつけられた。

「憂さ晴らしじゃねぇ、訓練だ。」

サンドバッグは否定しないのか。剣闘師団に遊びに行くのはやめておいたほうがいいかもしれないな。

「団長殿、パワハラはいけませんぞ。」

はなぽさんからの半分ふざけたようなツッコミが入る。団長同士の掛け合いはまだ少し続いているようだが、俺たちはクロスフェードの街に向かって歩き出した。

泡麦ひえ団長が小金井ささらさんを褒めている。分身だったのだろうか、いつのまにかスキルで別れた小金井ささらたちの姿は消えていた。

「ユキちゃんのおかげです。」

そう言って、ユキちゃんの髪を撫でる。だんだん見慣れてきた。慣れって恐ろしい。

「それでは、行きましょう。」

泡麦ひえ団長が先導する。他の全員は転移になれているのか、特に何も変わった様子もなく歩き始めたが、俺は本当に転移なんてものができたのか信じられない。

光を浴びながら外に出る。目の前に広がるのは、先ほどまでいたはずの森とは全くことなる景色。

左には見通しの良い広々とした草原がある。少し先に小川のようなものがあり、橋だろうか、何かあるのが見える。

右を見てもたしかに草原はあるのだが、さらにその先に見えるものが俺の気を引いた。

それは大きく横に伸びた壁。一見して高さもそれなりにあることが分かる。中世の時代の城壁に酷似している。

「ドイルとか言ったな、転移は初めてか?ここはクロスフェードの東側にある転移のための場所なんだよ。」

俺の横からkentax団長が説明してくれた。

いやまあ、合格通知が来たわけじゃないし、不正ではないだろう。

俺はタブレットを出し、アイテムボックスに封筒ごと入れておく。

「ありがとうございます。TOMOKI++さんにも伝えておいてください。」

とりあえずお礼を言う。

「それでは、この光が消えると、クロスフェードの近くです。こちらこそ、信者の皆さんによろしくお伝えください。ミコだよーーーーーー。」

そう言い残すと、大天使ミコエルはゆっくりと消えていった。ミコだよってそんな使い方もあるんだな。

同時に、俺の目の前の景色も一変する。

光が消えると、そこには先ほどとほぼ同じ石の洞窟の景色が広がっていた。

目の前には出口だろうか、大きな穴があいて、光が差し込んでいる。

「着きました。」

小金井ささらの声でハッとした。おそらく俺以外は大天使ミコエルに会っていないはずだ。周りを見ると、先ほどのメンバーは全員揃っている。

「ささらさん、成功です。腕をあげましたね。」

「学園の試験は受けるつもりです。せっかくだから、レミルメリカのことも勉強したいし。」

タダトモさんとの会話がどうやらミコエルの元にも届いていたみたいだな。
わりと監視されているようで、ちょっとこわい。

「そろそろタイムリミットも近いし、詳しいことは、また入学が決まった頃に誰かにお願いして伝えてもらいますね。」

よく見ると、ミコエルの羽根の部分が少し薄くなってきている。

しかし、魔族と仲良くか。すごく大変な役割を引き受けてしまったみたいだ。

「あ、そうだ。忘れるところでした。これ、TOMOKI++さんからの贈り物です。」

なんと。なんだろう。
ミコエルが紙の封筒を渡してくれた。

早速開けてみると、中には『受験票』と書かれた紙と説明の用紙が入っている。

「あまり時間がなかったそうなので、代わりに手続きしといたらしいです。」

おいおい、運営神が手続きとかやっていいのか?

思いっきり世界に介入している気がしてならないが、面倒を見てくれていると思ってありがたく受け取っておくことにした。

タダトモさんたちにどう説明するかな……

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