ミコエルのスキルによって、魔法の詠唱時間はない。
『ブラックハート』
こちらは闇属性の魔法だ。これなら、ミコエルの力によって効果が増大する。ブラックハートは、自分の体力を攻撃に変えて打ち込む技だ。ミコエルの体力は6000、ただ、あまり体力を使うと威力が上がりすぎる。ここは100くらいにしておこう。
ドイル
種族:人間
固有スキル:トランスモーフ、大天使の加護
レベル :90
経験値:34994113
所持金:100,000,000イェン
体力:5900(6000)
魔力:9600(9999)
攻撃:1200
防御:5700
敏捷:7500
状態:自動魔力回復、魔法無効(光)、闇魔法効果上昇
体力が削れた。さっきまでの魔法で魔力も少し減っている。
ブラックハートが発動して、、黒い塊が出現すると、相手のスキルよりも早く相手に向かっていった。
「スキルが間に合わ……」
ドオォォォォン
先ほどのシャイニーウインドに比べたら威力は低そうだ。音も小さい。
闇の玉が消える。
そこには若い男と、先ほど"はなぽ"と呼ばれた男が重なるように倒れていた。
#ボカロ丼異世界ファンタジー
「どうせ信じないだろうが、俺は残党じゃない。そもそもこの世界には来たばかりなんだ。ただ、分かってもらえないなら、ここは無理にでも切り抜けさせてもらう。」
もう先手を取られるわけにはいかない。
俺はすでにミコエルの力を身に纏っている。
威力の調整はどうなるかわからないが、とりあえず魔法の準備をする。
「そうはいかない!"ミライノート"」
スキルか!
やはり先手を取るしかないな。
『タイムライナー』
タイムライナーは時をかける"混沌"の魔法だ。大天使ミコエルの力がなければ発動できない時間の境界線を捻じ曲げる魔法。実際に時間を操作するのではなく、使用者の周りの時間の認識を遅らせる。
相手は気づかないうちに時間を遅く認識するようになっているから、必然的に魔法やスキルの使用、攻撃の反応が遅れてしまう。といっても、ほんの数秒しか効果はない。
だが、ミコエルの力があれば数秒でも十分だ。相手はスキルの名前を叫んだが、まだスキルが発動した様子はない。
俺は続けざまに魔法を放つ準備に入った。
another story side???-4
「それで?わざわざお前が来るのだから、何かあるのだろう?情報の対価に何を望む?」
闇姫Pの含みのある言い方に、本題を切り出すように促しているようだ。
闇姫Pもそれを感じたのか、少し声のトーンが落ちる。
「ええ、あなたのスキルを使って、例の学園を面白いことにしてほしいの。頼める?顧問Pさん。」
顧問Pと呼ばれた男は「ふぅ」とため息をつく。
「面倒だが仕方ない。転生者には俺も興味があるからな。その代わり、"どんな結果になるかまでは分からんぞ"。」
「あとのことはやっておくから御心配なく。それじゃあ、よろしく。」
闇姫Pは最初からそのつもりだったようだ。闇姫Pの言葉に合わせて、顧問Pのスキルが発動する。
「さあ、どんな結果になるのか見せてもらおう。」
天使も神も知らぬところで、"レミルメリカ"に蠢く闇が動き出した。
another story side???-3
「雨乞いの儀などに興味はないが、情報は力だからな。報告は定期的に受けている。お前こそ、学園の手続きは終わったのか?」
「終わりましたよ。ついでに、ある貴族の姫様が学園に来られるという噂を耳にして、あなたにお伝えしておこうと。」
闇姫Pは飄々としている。
「ほう?」
どうやら少しは興味をもたせることができる情報のようだ。
「噂はご存知ですか?あの"獣の姫"です。」
闇姫Pがにやりと笑う。
「かなりの跳ねっ返りで、姫として生まれながら森で獣を狩りながら過ごしていたと聞くが。まさか、親が痺れを切らしたか。」
関心のある話題ではあったようだ。
「ええ、その方です。親から学園に入り、人付き合いをするように言われたともっぱらの噂ですよ。」
「それで、闇姫P、お前がわざわざ例の学園に行くのはそれも理由か?」
「それもありますけれどね、この間、お話した転生者の件も気になりますし。」
転生者。闇姫Pはその言葉には相手が必ず反応すると分かっているようだった。
another story side ???-2
「ミコエル教の雨乞いの儀の曲の進捗はどうだ?」
男はメッセージで兵士からの報告を受ける。どうやら曲は完成まではしばらくかかるようだ。
「ふむ、ご苦労。あまりに早いようなら俺のスキルを使っても良かったんだが。」
こるんもうまく時間をかけてくれているようだ。
「その様子だとまだ儀式までは時間がありそうですね。」
どこからか別の声が響く。
「報告ご苦労。」
メッセージを解除した。
周りを見ると、どうやら執務室のような場所だ。部屋の真ん中に机があり、部屋の壁全体は本棚になっていて、所狭しと本が並んでいる。別の声は部屋に入ってきた人物のものだった。
「闇姫P……何の用だ?いや、越黒リタと呼んだ方がいいのか? 」
「ここでは闇姫Pで通しておりますので、そちらでお呼びくださいな。それにしても、この間はミコエル教に手を出すのは早いと言いながら、きっちり情報を集めているとは相変わらず暗躍がお好きですね。」
闇姫Pは、黒い衣装に身を包んでいる。こちらの世界ではゴスロリと呼ばれる服装に近いものだ。
「まさか残党の力がこれ程とは……。しかし、この神殿をこれ以上壊されるわけ……には……。」
ついに倒れてしまった。やりすぎた。
どうするかな。
回復魔法、何が使えるんだっけ……。
というか、残党って何のことだ?
うん、ひとまず治療してから弁明しよう。
魔法を唱えようと頭の中のリストを探す。
「はなぽさん!大丈夫ですか!」
若い男が突然礼拝堂に走ってきた。
どうやら、この男の仲間のようだ。
そうか、"はなぽ"と言うのか。
あった、これだ。
『クリエイション』
最上位の治療魔法だ。魔力を消費して足りない血や体力まで補ってくれる。
「お前、はなぽさんに何をした!」
回復魔法を唱え終わると同時に、若い男が勢いよく吠える。
どうやら倒れているこいつと同じ種族のようだ。
弟子と師匠か何かだろうか?
「俺は、突然襲われたから反撃しただけだって。今、治療魔法もかけたし。」
ひとまず本当のことを言う。
まあ、どうせ……
「嘘をつくな!お前は魔族を率いていたやつの残党だろ!」
そういうと思った。
ドイル
種族:人間
固有スキル:トランスモーフ、大天使の加護
レベル :90
経験値:34994113
所持金:100,000,000イェン
体力:6000
魔力:9999
攻撃:1200
防御:5700
敏捷:7500
状態:自動魔力回復、魔法無効(光)、闇魔法効果上昇
"大天使の加護"で魔法の発動に時間がかからなくなっている。
「いけ『シャイニーウインド』」
風属性の初級クラスの攻撃魔法だ。
レーザーのような細い風の筋が相手に撃ち込まれるって書いてあ……
ヒュッ……ドオオオオオン!
「うおっ!?」
思わず声が出た。なんだこの威力は。
椅子の残骸の一部が吹き飛んでいる。
あの男は大丈夫だろうか?
直撃で消し炭になってないよな?
初級の風魔法がなぜこんな威力に?
ガラガラッ
どうやら生きているようだ。
男は残骸の中から立ち上がった。
片腕をだらんとたらして反対側の手で肩を押さえている。
満身創痍だ。やりすぎた。
「はあっ、はあっ、これほどの威力の追撃…お見事です。グフッ。」
うわ、血を吐いた。これ危ないんじゃ。
今にも倒れそうだ。
魔物ハンターは、国が運営する協会に所属し、魔物を討伐することで報酬を得ることを生業にしている。
めたときいちは、魔物ハンターとしてこれまで何度も大物を屠ってきたことで有名だ。王国を襲った大鷲の魔物、伝説級とさえ言われたドラゴンが魔物化したものを倒したとさえ噂されている。
どこまでが本当の噂なのか分からないが、彼らなら"トカゲアザラゴン"の求める「強き者」にも当てはまるだろう。
彼らでも「強き者」でないとすれば、この国の戦力だけでは、トカゲアザラゴンの討伐は難しい可能性も出てくる。
「万が一、捨て駒となっても手傷くらいは負わせてくれるだろうな。めた。」
せいぜい役に立ってくれ、とでも言わんばかりだ。
最後には自分の手で倒せばいい。
クリスエスはそう考えていた。
対人用とはいえ、彼のスキルを使えばできないことはないだろう。
後方の憂いを絶ったと確信したクリスエスは、再び彼の職務に没頭し始めた。
another story C5
「クリスエスさんって言ったかな?うまい話には裏があるってのが昔からの教えだろ?ちがうの?」
かなり若い声のようだ。たしか、きいちの方は学園に通う程度の年齢だと言っていたな。
「ふん、私自身が討伐隊を率いても構わんのだが、他にやるべきことがあるのでな。魔物ハンターであるお前たちの力を有効に使おうと言うわけだ。」
「ふーん。」
クリスエスの発言が本気だとは到底思えないらしく、きいちは適当な答えを返した。
「何でもいいよ、報酬分の仕事はするさ。」
めたもあまり気にしていないようだ。
「お前の腕だけは信用している。こちらが得ている情報は後で部下に持って行かせる。受け取ってくれ。」
「久々の大物ですからね。楽しみにしておきますよ。」
めたから、討伐を引き受ける旨を受け取ると、クリスエスはメッセージを解除した。
another story C3
「はい、どちら様でしょう?」
メッセージの魔法は成功したようだ。
「クリスエスだ。少し頼みたいことがあってな。」
「珍しいね。クリスエスさんが頼みごとなんて。」
メッセージ越しにおどけたような声が帰ってくる。
「トカゲアザラゴンの噂は聞いているか?」
「ええ、聞いてますよ。魔物ハンターの間ではもう討伐に向かう奴らも出てきています。」
魔物ハンター。レミルメリカに出現する魔物を討伐する職業だ。
「それなら話が早い。どうだ、討伐できそつか?」
クリスエスは魔物ハンターにトカゲアザラゴンを討伐させることにしたのだ。
「どうかなぁ〜?随分と強いみたいだしねえ。」
強いとは言いながらもその声には自信が溢れているように聞こえる。
「ふん。相変わらずだな、"めた"。チームの編成も任せる。報酬も言い値で払ってやる。」
「随分と気前がいいね。」
メッセージに他の声が割り込んできた。
「お前が"きいち"か。」
こちらは女性の声だ。めたのパートナーとして名を馳せている女だと聞いている。
another story C2
「ご苦労、下がっていいぞ。」
兵士から受け取った報告書に目を通すと、手を振って出て行くように指示を出した。
「このタイミングで人語を話す魔物が出現するとはな。」
"トカゲアザラゴン"なる魔物の存在は王国に激震をもたらした。魔物を喰らう巨大な魔物。生態系の頂点にでも君臨すると言うのか。そのような魔物を王国が放置したとあっては、国の威信と存続に関わる。そして、王は"トカゲアザラゴン"の討伐に莫大な懸賞金をかけ、最重要クエストに指定した。
異端審問官・クリスエスの元にもその報告が届いたのだ。
「こんなことに時間を割いている場合ではないと言うのに……。」
ミコエル教のためにKAIから告げられた動き出した4人の異端者の所在を探らなければならない。クリスエスにとっては、強き者を待っているトカゲアザラゴンよりもそちらの方が重要だった。
しかし、王からの勅旨を無視することはできない。と言っても、彼のスキル"異端審問"は基本的には対人スキルである。
「致し方あるまい。」
そう言ってクリスエスはメッセージの魔法を発動した。
「今度はこっちからいくぜ!」
俺は思い切り地面を蹴って、相手の方に向かっていく。
一瞬で相手との距離が詰まる。自分でも思っていたよりかなり早い。人間の限界を軽く超えているような気がする。
相手もその速度に驚き、何かを発動しようとした。だが、遅い。
「くらえ!」
相手の顔に向けて右拳の一撃を放つ。
魔法の発動が一歩遅かった男は何とか左腕でガードするも、身体硬化のかかった神の力は伊達ではない。
男は勢いよく後ろに吹き飛ばされ、そのまま先ほどの爆風で壊れていた椅子の残骸に突っ込んだ。
ドォン!!!
大きな音と共に残骸から砂煙があがる。
壊れた椅子の木屑が舞い上がったのがはっきりと分かった。
TOMOKI++さんのパワーに感謝だな。
さて、ガードもされていたようだし、あの一撃では倒せないだろう。
だが、このまま近寄るのは愚策。
ここはこれだ。
…………
"ミコエルの契約書"を使用します。
…………
遠距離から魔法で攻める!
そして、ミコエルの力を身に纏った俺は"大天使の加護"を発動した。
爆発が起こった瞬間、咄嗟に両腕を顔の前でクロスして顔を守った。
強い爆風と衝撃。だが、不思議と痛みは感じなかった。元いた世界なら確実に即死であるほどの熱量だ。それなのに俺の身体は、何事も無かったかのように動かすことができる。
「やっぱりこの能力はチートだわ。」
ドイル
種族:人間
固有スキル:トランスモーフ、絶対管理者
レベル :92
経験値:33734325
所持金:100,000,000イェン
体力:7800(8000)
魔力:1500
攻撃:8600
防御:6700
敏捷:6200
状態:管理者権限、身体硬化
200ダメージを受けた。
煙が徐々に晴れていき、再び目の前の男が見えるようになる。
どうやら驚いているようだ。
そりゃそうだ。俺も驚いている。TNTと言えば、ダイナマイト級の爆発物。いくら身体硬化を使っていても腕の一本や二本吹き飛んでいても不思議はない。
しかし、やはり問答無用で力を使ってくる相手だ。話合いは難しい。
ここはひとつ、こちらから攻めていくことで活路を見出す作戦を……ドイルには力技で押し切る以外思いつかなかった。
爺やの後ろには馬車が控えている。
「最後だから今日1日自由にさせてと言ったはずだけど?」
彼女は人が苦手だった。人が嫌いなわけではない。ただ、相手の気持ちを読み取ることに慣れていないのだ。
だから、彼女は森で自然と触れ合っていた。彼らに言葉はない。むしろそれが心地よかった。
「ご主人様が予定を早められたのです。すぐにでもお戻りください。」
どうせ逆らったところで無駄だ。彼女は爺やが現れた時点ですべてを諦めていた。いつもそうだ。私の思い通りになることなんて何もない。
だから、私は何もしない" ことを決めた。
使命?責任?
そんなものは知らない。
「わかりました。」
彼女は鹿の死体が入った袋を爺やに手渡し、目の前に用意されていた馬車に乗り込む。しばらくこの森ともお別れだ。
彼女はこの後、王都にある学園に通うため、慣れ親しんだ土地を離れることになっている。
「今夜、お立ちになる前には鹿肉を使った料理をお出し致します、"ユーリ姫様"。」
「姫って呼ばないで。」
彼女は刀の柄を握りしめた。まるで、自分の信じるものはこれだけだと言わんばかりに。
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鬱蒼と茂る森の奥。彼女は身を潜め、獲物が動くのを待っていた。
目の前にいるのは鹿だ。首を下にして夢中で草を食べている。群れとはぐれたのか、他の鹿がいない。
満足したのか、鹿は無防備に首を持ち上げた。その瞬間、彼女は草陰から飛び出し剣を振るう。
「ウインドエッジ」
そう唱えると同時に剣から風の刃が鹿に向かって飛ぶ。
鹿は音に反応して逃げようとするが遅い。
彼女の"飛ぶ斬撃"が鹿の首を切り落とした。
「やった。」
倒れた鹿の側に歩み寄り、死んでいることを確認する。仕留めた鹿の血抜きをして切り分けて持ち帰る。
ここは彼女にとって庭のようなものだ。幼い頃からこの森で育ってきた。毎日のように森を駆け回り、時には狩りをして、時には川で泳ぎ、森と共に生きてきた。この場所だけが、彼女を本来の自分に戻してくれる。
鹿の肉を持ち、森を出ると、そこには人が立っていた。森には似つかわしくない燕尾服を身につけている。
「爺や…どうして。」
彼女はとても嫌そうな顔を見せる。爺やと呼ばれた人物は、全く意に介さない様子で言った。
「お迎えに上がりました。」
魔物の声がもはや兵士たちに興味を失ったようにも聞こえる。それはそうだ、もはや敵対できるような相手ではない。神話の産物であるドラゴンですら、人の言葉を喋ることはできないのだから。
魔物は続ける。
「我は"トカゲアザラゴン"。古より君臨する者。天空の頂にて、強き者を待っている。」
魔物はそう言うと、背中の翼を羽ばたかせ、瞬く間に上空へと消えていった。
トカゲアザラゴンの羽ばたきによって雲が割れ、周りには雨が降っているというのに一部だけ太陽の光が照らされる。
羽根を震わせるだけですべてを破壊しそうなほどの強敵の出現。
後に残された兵士たちは雨に打たれながらしばらくの間、何もできず立ちつくすしかなかった。
"神獣・トカゲアザラゴン"
この一件以来、"レミルメリカ"では、魔物を喰らう魔物の存在が噂されるようになる。
強き者……あれだけの魔物を倒せる者が本当に現れるのだろうか。
兵士たちは躊躇していた。熊の魔物すら捕食するような敵とどのように戦うというのか。彼らは兵士ではあるが、戦士ではない。スキルを鍛え上げた者たちほどの力はないのである。
ふと見上げると怪物がこちらを見ている。 のが分かった。
その目は黒く光り、雨の中でも的確にこちらを捉えている。
本当にやるしかないのか?
そう思ったとき、兵士の耳に声が響いた。
「引け、人間共。そのまま下がれば危害は加えぬ。」
誰の声だ?
「聞こえぬか?武器を下ろして下がれ。」
まさか、魔物の声なのか?兵士たちはお互いに顔を見合わせる。兵士の1人が恐怖で震えながら武器を落とした。
それもそのはずだ。魔物が言葉を発するなど聞いたことがない。ただでさえ、強い魔物に、知性がついたかと思えばそれだけで恐怖である。
「戦を前に武器を落とすとは、お前たちは敵にすらならぬようだ。」
頭の中に響くような重い声だ。
「良いか、弱き者たちよ。我は強き者を望む。」
ドサッ……
音が響いた。
兵士たちが音に反応して武器を構える。
ドサッ、ドサッ……
また音がした。
どこだ?どこからだ?
音は近い。
「うわぁぁぁぁぁ」
兵士の1人が叫び声をあげた。
兵士たちが声の方を向くと、そこには熊だろうか、魔物の首だけが転がっていた。
ドサッ……
再び音が響く。今度は違う方向だ。
「う、上だ!上にいるぞ!」
全員が咄嗟に空を見上げる。
なっ……そして同時に息を呑む。
兵士たちは見た。
「おお、なんということだ……」
「これは……魔物なのか……」
口々に声が漏れる。
彼らが見たのは、巨大な体躯をもつ魔物。
魔物を食べる魔物であった。
食べ終えた魔物なのか、口からはみ出した魔物たちの肉片が地面に落ちていたのだ。
大雨で視界も悪く、上空の敵を見落としていたらしい。だが、その魔物の姿を見た兵士たちは全員が死を覚悟した。
頭部には長く伸びた三本の角。
身体は大きく、背中にはコウモリのような大きな翼が生えている。
こんな魔物は見たことがない。
こいつはいったいなんだ……。