「おらぁ!」
一閃。
横に凪いだ剣が対象を両断する。
「報告!」
その声に合わせて、周りから声が飛ぶ。
「2体殲滅、残り3。」
「同じく2、残り1です。」
「1体殲滅、木の上に4。」
報告は3方向から聞こえた。
「残り8か。楽勝だな。」
剣闘師団団長・kentax。手に持った剣には、王国の紋章が刻まれている。
現在、剣闘師団は戦闘中だ。水を確保し、クロスフェードまで帰還する途中、魔物の討伐依頼が舞い込んだのだ。
討伐対象は"猿"の魔物。小型の魔物ではあるが、素早く、木の上を移動するため、捉えにくい。さらに集団で移動するから厄介極まりない。
剣闘師団は、セレスティア草原に点在する小さな森のようになった場所に猿の魔物を追い込み、戦闘していたのである。
「"ショックウェーブ"」
「"パラライズ"」
剣闘師団は後続の魔法師団と合流していた。
どちらもプロムナード近郊へと遠征していたのであるが、魔法師団はある事情によって出発が遅れた。剣闘師団は先に出発したが、砂漠地帯で水を切らし、その入手に追われていたため、結局合流する形になったのである。
#ボカロ丼異世界ファンタジー
数時間も歩いてはいないはずだが、少し空が赤くなった気がする。もうすぐ夕暮れ時ということだろうか?
道中では、はなぽさんに"クラフト"の使い方を習ったり、タダトモさんからクロスフェードにある学園の話を聞いたりと、わりと楽しい時間を過ごすことができた。
「もうすぐ追いつきそうですよ。」
赤い丸が近づいている。
向こうも移動はしていたみたいだが、先ほどから同じ場所に留まっている。
「ふむ。もしかして戦闘中なのでは?」
よく見ると、少し先の場所に煙のようなものが見える。
「魔物が出たのかもしれないですね。」
タダトモさんの話を聞いて、そういえば、最近魔物の数が増えてるという話があったことを思い出す。
「とりあえず行ってみましょう。」
うまくいけば剣闘師団の戦いが見られるかもしれない。さすがに武器はゲームの中くらいでしか扱ったことがないからな。TOMOKI++さんのスキルが格闘系じゃなかったら使えていなかったかもしれない。
「そうですな。さすがにお手伝いするような必要はないと思いますが。」
はなぽさんの声に合わせて、俺たち3人は走り出した。
#ボカロ丼異世界ファンタジー
タブレットの画面を見直すと、画面に赤い矢印が表示されている。どうやら上を指しているようだ。
俺は画面にある赤い矢印に触れた。
すると地図が切り替わる。同時に頭の中の地図も切り替わった。
天空の頂は、どうやら俺たちが今立っている場所のはるか上空にあるようだ。
サーチの範囲に入ってるってことは、10キロくらいしか離れていないはずなのだが……。
立ち止まって空を見上げてみるが、何も見えるわけではない。
「条件達成でいけるイベントクエストみたいなものかな。」
俺はポツリと言葉をもらす。
「ドイルさん、どうしたんです?急に立ち止まって。」
タダトモさんが話しかけてきた。
「ドイル殿、置いて行きますぞ。」
はなぽさんたちと少し離されてしまった。
天空の頂。
いつか行く機会があるのだろうか?
そう思いながら、俺ははなぽさんとタダトモさんのところに小走りでかけていった。
#ボカロ丼異世界ファンタジー
「実際に見たと言っている人たちは、かなり巨大な魔物だったと話しているそうで。魔物を食らうとの噂もあります。魔物を超えた魔物"神獣"と呼んでいる者もおりますな。」
はなぽさんが追加で説明してくれた。レミルメリカのことを聞くだけで話は尽きない。はなぽ、タダトモ、トカゲアザラゴン、ミコエル……考えたら本当に不思議な世界だよな。
「試してみるか。」
タブレットを起動する。
「マップ。」
画面が立ち上がり、画面上を緑の線が行き来する。俺の頭の中に周辺の様子が映像で映し出された。
「サーチ、天空の頂。」
そんな簡単には引っかからないだろう。
……………
FIND
……………
「あれ?」
思わず声が出てしまった。
「どうかしたのですかな?」
突然のことに、はなぽさんが反応したが、誤魔化すしかない。
見つかっちゃったぞ、天空の頂。
「ふむ。詳しいことは聞いてみないと分かりませんが、トカゲアザラゴンの一件かもしれませんな。」
はなぽさんの口から聞いたことのある名前が出てきた。
「トカゲアザラゴンですか?」
俺はつい口に出してしまった。ボカロ丼にいたバーチャルボカロPじゃないか。
「ええ、突然、レミルメリカに現れた魔物です。強者と戦うことを求めているらしく、最近は魔物ハンターたちが躍起になって探していますよ。」
タダトモさんの真剣な口調からして、何か大きな事件でもあったのだろうか。
「どこにいるか分かってないんですか?」
俺が知っているトカゲアザラゴンさんは、手書きの楕円に角が3本生えた可愛らしい絵だけだ。オフ会によくいるって話は見たような気がする。
「ええ、天空の頂という場所にいるということですが、まだ場所も分かっていないようですね。」
天空の頂、なんかどこかの勇者大活躍のRPGに出てきそうな名前だ。
「トカゲアザラゴン、強いんですかね?」
名前を言うたびにボカロ丼のアイコンが頭をよぎるため、どうにも強そうには思えないのだが。
kentax。名前から見て、明らかにボカロ丼にいるであろう人物だ。しかし、俺はあまり見た記憶がない。
ということは、俺が転生してからボカロ丼に来た人物だと考えるのが妥当かもしれない。
はなぽさん曰く、気さくなおじさんといった雰囲気だそうだ。どうやら会ったことがあるらしい。
いったいどんな出会いとなるのか、期待に胸を膨らませながら、俺たちはセレスティア草原を進んでいった。
セレスティア草原は、見渡す限り青々とした草の茂る平穏な場所だ。マキエイと春沢翔兎との戦闘、ごーぶすさんの毒の沼の暴走がこの場所で起こったとは想像がつかない。
草原には所々にため池のような小さな湖があり、野生の動物たちに出会うこともある。
「そういえば、どうして剣闘師団がこんなところまで来てるんですかね?」
タダトモさんが歩きながら話を振る。
聞いた限りでは、このあたりはセレスティア王国の端にある場所だ。首都のクロスフェードまでは転移の魔法を使うくらいだから、部隊としてはかなりの遠征になるはずだ。
小屋を出ると俺は"サーチ"を発動し、剣闘師団を探す。頭の中に地図が浮かび、赤い丸がいくつか現れる。
どうやら、ここから南西方向に8キロほど行ったところを移動しているようだ。数は……10人ほどだろうか。小隊で動いているのかもしれない。
「はなぽさん、剣闘師団を見つけました。」
剣闘師団。セレスティア最強の戦闘部隊。
「ドイルさんの魔法は便利ですな。」
はなぽさんとタダトモさんに方角を指で教える。わりと近くにいて良かった。わざわざ移動速度を上げなくとも、2時間もあれば追いつけそうだ。
剣闘師団は、日頃、セレスティアの首都クロスフェードにおり、王族の護衛に当たっている。
しかし、有事の際にはセレスティア中に遠征し、荒事を解決する役目を負うらしい。魔物を狩ることもあるのだとか。
剣闘師団に加えて魔法師団と呼ばれる魔法使いの集団もあるらしい。
それぞれのリーダーを団長と呼び、どちらもここ数年で団長が変わったそうだ。
剣闘師団団長kentax、魔法師団団長泡麦ひえ
泡麦ひえさんはボカロ丼で見た記憶があったような気がする。
#ボカロ丼異世界ファンタジー
剣闘師団、魔法師団。軍隊の名前か?
「おお、もしやkentax殿がいらっしゃるのですかな?」
はなぽさんが反応した。
「数日前に伝令が来てな。プロムナードかどっかの帰り道に神殿の南を通るから許可をと報告があったはずだ。団長もいるはずだ。」
団長というのは、先ほどのkentaxという名前の人物だろうか。
「合流できれば、クロスフェードまで連れて帰ってもらえますかね?」
タダトモさんも剣闘師団や魔法師団のことは知っているようだ。知らないのは俺だけなのだろう。後で聞いておこう。
「魔方陣を作るにはちょっと魔力が足りねえからな、俺はあと2日くらいは羽休めだ。」
ごーぶすさんのスキルは強大な力の代わりに反動も大きいのだと改めて実感する。
「メッセージで団長には言っといてやるよ。」
ごーぶすさんの言葉に甘え、俺とはなぽさん、タダトモさんの3人は小屋を後にした。
はなぽさんにはこちらからお願いしたが、レミルメリカに来て初めて契約を向こうから切り出された。これは忘れられない記憶になるだろう。
「おっと、ここで使うなよ。暴走したら事だからな。」
たしかに、先ほどのことを考えれば、ここでの発動は控えるべきだろう。近いうちにどこかで試しておきたいところだ。
「それで、お前らこれからどうするんだ?魔方陣はもう使えないぜ。」
そういえば、毒にやられてしまったんだった。ついでのことに、俺の魔法で掘り返してしまったことで、原型は留めていない。
「ごーぶすさんを襲った2人組の目的も気になりますし、一度クロスフェードに戻りたいですね。」
タダトモさんの言う通りだ。
「歩くにしてもクロスフェードはかなり距離がありますからな。」
さすがに基礎の魔法の本には転移の魔法はなかったしな。すると、ごーぶすさんが、思い出したように呟く。
「あ〜そういや、近くに剣闘師団と魔法師団が来てるんだった。あいつらに言えば何とかしてくれるんじゃねえか?」
ごーぶすさんの提案に戸惑いながらも、俺は力を借りることにした。スキルを持っておけば、暴走を止める手段もわかるかもしれないと考えたからだ。
「ごーぶすさんの力、お借りします。」
俺はアイテムボックスを起動する。
…………
ドイルの契約書の起動を確認しました。
スキル"トランスモーフ"を起動します。
……………
タブレットの画面が光を放つ。
…………
スキル"トランスモーフ"が発動されました。
対象を選んでください。
▶︎タダトモ/ダンテP
ごーぶす/ライチョー隊長P
……………
タダトモさんとも契約できるといいな。そう考えつつ、ごーぶすさんを選択する。
「へえ、頭の中に、声が聞こえるってのは不思議な体験だな。」
ごーぶすさんが許可を出してくれたようだ。
…………
対象が選択されました。
白紙の契約書を使用します。
白紙の契約書は"ライチョー隊長Pの契約書"になりました。
……………
「できました。ありがとうございます。」
アナザーストーリー:天を穿つ光柱???
レミルメリカの砂漠地帯に雨が降っている。人々は大天使ミコエルが立ち去った後、喜び勇んで各々の準備のために解散して行った。これで砂漠地帯の生活は潤いを取り戻すだろう。そして、雨乞いの儀の成功によってミコエル教は今以上に勢力を強めることになる。
それゆえに雨乞いの儀はレミルメリカにあるすべての国から注目されていた。
儀式と"アトラスの軌跡"の発動成功は、瞬く間に世界を座間した。
ミコエル教徒の多いセレスティアではお祭りのような雰囲気が街中に溢れ、プロムナードからは祝いの花束が届けられた。
プリズムでは海洋評議会の開催が決定され、シルーバーケープや試練の島の魔物たちは巨大な魔力に反応した。
アビサルは特に大きな反応を示さなかったが、リッカはプロムナードと合同で花束に祝い金を出したそうだ。
雨乞いの儀は世界の多くから賞賛を浴びた。
ミコエル教が渇きから砂漠地帯の人びとを救ったと噂は広まっていった。
しかし、レミルメリカに隠れ潜む闇の世界の住人たちが、雨乞いの儀の成功と共に動き始めていたことをまだ神や天使ですら把握してはいなかったのである。
アナザーストーリー:天を穿つ光柱5
「このモケケが天界までお連れします。」
どうやらモケケの魔法のようだ。
「私もお供します。」
桐エルが名乗り出た。
「私は儀式のその後を見届けてから戻ります。」
まきエルは、しばらくレミルメリカに留まるようだ。クリスエスとこるんはそのやりとりをじっと見ている。
ミコエルの身体が徐々に空へと上がっていく。すでに黒雲が空全体を覆っており、いつ雨が降ってもおかしくない。
民衆たちはミコエルの姿を少しでも目に焼き付けようと真剣な眼差しを向けている。
すぐにミコエルは黒雲に届いた。
「ミコだよーーーーーーー!」
空へと消え去る寸前に大天使ミコエルの声が響き、その声が聞こえ終わると同時に、空からポツポツと雨粒が落ち始めたのであった。
アナザーストーリー:天を穿つ光柱4
「クリスエスさんもありがとうございます。でも可愛そうだから、あまりいじめないであげてくださいね。」
ミコエルは笑顔だ。
「仰せのままに。」
クリスエスはすでにその手に『禁書目録』を顕現させている。いつでも発動できるようにしているのだろう。
「さて、こるんさん。」
ミコエルはこるんに話しかけた。
吟遊詩人こるんも、その力の大半を使いきり、肩で息をしているような状況だ。
「雨乞いの歌、素晴らしいものでした。いつか『伝説入り』することを願っています。あなたの活躍、これからも楽しみにしていますね。」
こるんは、ミコエルを見上げる形になっているが、その声を聞き逃すことはなかった。
「ありがとうございます。吟遊詩人としてこれからも世界に歌を。」
こるんは軽く頭を下げた。
ミコエルは集まった民衆たちの方を再び見ると、羽根をひときわ大きく広げた。
「ミコエル教徒の皆さん、大天使はいつもあなたたちのこを見守っています。それでは、またいつの日か。」
そういうとミコエルの身体が泡のようなものに包まれた。
アナザーストーリー:天を穿つ光柱3
そんな中、ミコエルは皆に告げた。
「"アトラスの軌跡"は発動しました。これより三日三晩、砂漠地帯には決して止むことのない雨がもたらされるでしょう。」
その声は先ほどよりも疲労しているようにも聞こえるが、それでも大天使は笑顔を絶やさなかった。
「ミコエル様、ありがとうございました。」
まきエルがミコエルにむけて頭を下げる。
「まきエル、あなたこそ祭壇の建設お疲れ様でした。私は天界に戻ります。」
ミコエルは魔力を使い切っているため、回復までは時間がかかる。
「ミコエル様、何者かに狙われては一大事になります。お早くお戻りください。」
どこに潜んでいたのか、ミコエルの横に突然現れたのはカニの姿を模した存在だった。
「モケケちゃん、私は大丈夫だよ。」
ミコエルのボディガードを務めるモケケだ。
「必要とあらば、私の力もお使いください。ミコエル様に仇なす不届き者は、我が"異端審問"にて必ずや排除致します。」
クリスエスがミコエルに頭を下げる。
アナザーストーリー:天を穿つ光柱2
大天使ミコエルは、ついに"アトラスの軌跡"を発動した。発動と同時にミコエルの身体に込められたすべての魔力が光の柱となって晴れ渡る空へと突き刺さる。
「天よ、お願い。その姿を変えて。」
大天使ミコエルの声と共に光の柱の先端が黒く染まる。そして、柱の先から黒い雲が生み出された。
民衆がざわつく。その黒い雲はまさに雨雲だった。砂漠地帯に雨が降ることはない。
黒い雲が晴天の空を覆っていく。早朝から突然夜になったような錯覚に襲われるほどだ。
黒い雲が発生して少し経ったとき、大天使ミコエルの身体から突然光が消えた。魔力が切れたのだ。ミコエルはその身体を空中に浮かせたまま、静かに漂っている。
光の柱はミコエルから切り離され、次々と空に雨雲を生み出した。
ミコエルは安堵の表情を見せた。どうやらアトラスの軌跡は無事に発動したようだ。
空が黒く染まるが、まだ雨は降っていない。
民衆は雨の降る瞬間を見逃すまいとして、集中している。
アナザーストーリー:天を穿つ光柱1
大天使ミコエルは光の球に込められた魔力を吸収した。すでに溜め続けた魔力が身体から溢れ出そうなほどだ。
大天使ミコエルの降臨は、ミコエル教徒たちにとってはまさに奇跡。その美しい姿に民衆は語彙力を失っていた。
桐エルが動いた。
「地が乾き、水が枯れ、人が嘆くとき、天使へ祈りの歌を捧げるべし」
ミコエル教に伝わる雨乞いの儀の文面だ。
吟遊詩人こるんの歌で、ミコエル教の信徒たちは祈りは最大限に引き上げられている。
「スキル発動、"大天使の加護"」
大天使ミコエルは固有スキルを発動した。大天使の持つレアスキルを知る者は少ない。すべての信徒たちがミコエルに注目している。
大天使の加護によって、信徒たちの力がミコエルに流れ込んでくる。ミコエルは思う、人の心はこれほどの力となるのか、と。
雨を望む民衆の願いをミコエルは聞き届けた。そして、祈りの歌で集めた力と、自らが溜めた魔力を触媒に強大な魔法を発動した。
「Trails of atlas」
#ボカロ丼異世界ファンタジー
アナザーストーリー:大天使の降臨5
皆が祈りを止めて立ち上がる。その姿を見たある者は無条件に涙を流し、ある者は再び膝を折った。声にならない声を上げている者もいる。
クリスエスと桐エルも頭を上げ、じっとミコエルの方を見つめている。
最後に頭を上げたのはこるんだった。
顔を上げ、ミコエルの方を見るとミコエルもこるんの方を見ていた。
無言で目が合うとまるで吸い込まれそうなほどの強大な力を感じる。魔力の圧でこるんなど、軽く消し飛ばされてしまいそうだ。
(これが……大天使……世界を創世する力すらもったミコエル教の最上位。)
レミルメリカの地に"大天使ミコエル"が再び降臨したこの日は、レミルメリカの歴史に刻まれることになったのである。
「まきエル、桐エル、よく働いてくれました。クリスエスさん、いつもあなたのことは見ています。そして、こるんさん、よく私を呼び出しましたね。あなたの歌、たしかに聞き届けました。」
天使の声が響く。
「ここからは私の役目。さあ、"アトラスの軌跡"をお見せしましょう。」
大天使ミコエルの元へ、光の球体が吸い込まれていった。
#ボカロ丼異世界ファンタジー
アナザーストーリー:大天使の降臨4
神官や民衆を包んでいた光が線となり、こるんのいる祭壇の頂上へと向かう。
音楽隊の演奏が終わる頃には、その線が1つに重なり、光の球体が完成していた。
こるんに見えていた光の中にある影はどんどんこちらに近づいてきている。
見えた。
歌い終えたこるんも、その姿を見た瞬間、先ほどのクリスエスたちと同様に膝を折る。
全ての者が跪き、天からの使いが舞い降りた。
祭壇の頂上のさらに上、空中に浮かぶその姿。
薄いピンク色の羽根と白い服、青い髪。
右手には開いた傘を持っている。
水色を基調にした美しい色彩が、太陽の光を浴びてさらに光り輝いている。
まきエルが立ち上がり、声を上げた。
「大天使ミコエル様の降臨である。」
アナザーストーリー:大天使の降臨3
「恵みをもたらせ」
雨乞いの歌が終わりに近づくと、晴れ渡っている空から、それを超える一筋の光が、祭壇に向かって照らされた。その光は祭壇の頂上に当たる。こるんは、光に呑まれた。
「燃える山を頼りに」
それでも歌は止まない。そればかりが、光に照らされたことで、こるんはさらなる魔力を放出している。神官や民衆たちの光も強さを増した。
もはや、この地一帯が光に包まれている。
「天へと祈りを届けるのだ」
神官たちも一斉に膝をついた。
天から降り注ぐ光がさらに強くなる。
そして、こるんは気がついていた。
光の向こうに1つの影が見えていることを。
突然、まきエルと桐エル、そして、クリスエスが膝をついた。そして、右手の手のひらを左胸にあて、頭を下げる。最上級の敬意を示していると、誰もがわかるだろう。
こるんの声と魔力が一際大きく響き渡る。
「天へと祈りを届けるのだ」
歌が終わる。
アナザーストーリー:大天使の降臨2
音楽隊の演奏とこるんの声だけが響く。
「世界が干上がる」
民衆たちはこるんの歌に圧倒される。
歌が始まった途端、祭壇の火がより一層燃え上がり始めた。
「バスの外は灰色」
歌とともに神官たちの身体が光り始めた。
神官たちが何かの魔法を発動している。
「草木は立ち枯れ」
次に少し遅れて民衆たちの身体も光を放ち始めた。それと同時に、皆が膝を折り、胸の前で手を組む祈りを捧げるポーズへと変わっていく。
「小川は水を求める」
民衆たちの祈りの姿は、祭壇に近いところから徐々に後ろへと広がっていく。
火がより一層高く燃え上がり、その炎は天へと届くのではないかという勢いだ。
「雨よ降れ この地に」
こるんの額、腕、あらゆるところには汗が滲み、魔力が強くなっていく。
全てを歌に捧げている。
クリスエスはその様子をじっと見つめていた。クリスエスやまきエル、桐エルの身体は光っていない。魔力を使っていないのだろう。