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アナザーストーリー:大天使の降臨1 

祭壇の頂上では魔法の火が燃えている。かつて、この火を目印に大天使ミコエルが降臨したらしい。吟遊詩人こるんに任された残された役目は「雨乞いの歌」を歌うことだ。

こるんは頂上から黙って民衆の方を振り向き、両手を掲げる。雨乞いの儀で歌い手の行うべき行動はすべて過去の資料に定められている。

「あ〜〜〜」

声を響かせるようにこるんは声を発する。
祭壇の上から発した声のはずが、その声は下にいるすべての民衆の耳に届いていた。

吟遊詩人こるんのスキル"Each of Voice"
読み方はイーチオブボイス。

吟遊詩人こるんは、音を操る。
自分の声を拡散しているのだ。
声そのものに魔力を乗せるのは、吟遊詩人の基本だ。こるんは、固有のスキルによって、それをより広範囲に届けることができる。

こるんは、祭壇の火に向き直る。
音楽隊の演奏が変わった。
民衆たちがざわめく。

"雨乞いの歌"だ。

アナザーストーリー:異端の目2 

「龍人族の方には初めてお会いしましたので、驚きました。クリスエス様、吟遊詩人のこるんと申します。お見知り置きを。」

挨拶を交わしたこるんをクリスエスはじっと見つめていた。

「儀式の前にそんなにこわい顔をされたら緊張してしまいます。」

こるんはクリスエスに笑いかけた。

「これは失礼した。その若さで雨乞いの儀をされるとは、かなりの力をお持ちのようなので、つい。」

クリスエスは頭を下げた。

「いえいえ、人の身には有り余る光栄。それでは、行って参ります。」

こるんは、2人に頭をもう一度下げると階段をさらに登り始めた。神官たちの間を通って、火が燃える頂上へと辿り着く。

音楽隊の音がひときわ大きくなった。

クリスエスはそんなこるんの背中をじっと見て、まきエルに聞こえないように言葉をもらした。

「"人の身には有り余る光栄"か。あくまでも自らを人と言うのだな『魔族の小娘』よ。」

異端審問官クリスエスは吟遊詩人こるんが人でないことを見抜いていた。

まもなく雨乞いの歌が始まる。

アナザーストーリー:異端の目1 

吟遊詩人こるんは、祭壇を一段一段ゆっくりと登っていく。背後から数え切れないほどの民衆の視線を感じる。

(ああ、私は今、世界で最も注目を集める吟遊詩人だ。)

こるんはこれまでにないほどの興奮を覚えていた。自らの名前が、自らの功績が、世界に広まる瞬間だ。

今日を境に名前は世界を駆け巡るだろう。
皆がこるんを称え、歌を頼むだろう。

「私の歌が……世界を変える。」

こるんの言葉は誰にも聞こえていない。
そして、こるんはまきエルの横に辿り着く。

「よろしくお願いしますよ。」

まきエルに声をかけられたこるんは一礼する。

「お任せください。」

こるんは笑顔で答えてみせた。誰かは分からないが、横に立つ者にも一礼する。

獣人族だろうか?それにしては、どのような獣なのか分からない。むしろその姿は龍に近いような印象を受ける。

「私が気になるかな、吟遊詩人殿。私はクリスエス。龍人族だ。」

龍人族。
龍の力を受け継ぐ一族だ。その力は軽く人を凌駕すると言われている。

アナザーストーリー:儀式の始まり3 

クリスエスとまきエルは2人で連れ立って歩き出した。

「音楽隊、鳴らせ。」

祭壇の横にはいつのまにか音楽隊が並んでいた。ミコエル教の音楽隊なのだろうか。かなりの人数が並んでいる。

桐エルの号令によって、音楽が始まる。
まきエルはクリスエスと共に祭壇を登る。
そして、神官たちの下に着くと、民衆たちの方を振り向いた。

「さあ、吟遊詩人をここへ!」

民衆たちの見守る中、待機していた小屋からこるんが姿を見せる。

雨乞いの儀。レミルメリカ創世以来、2度目の儀式が始まった。

アナザーストーリー:儀式の始まり2 

「どうやら、始まるようだな。」

まきエルとも桐エルとも違う声だ。
その者が姿を見せた時、神殿を警備していたセレスティアの兵士たちは一斉に地面に膝をついて敬意を示した。

「よい、儀式の警護に集中せよ。」

その様子を見たまきエルが、その者の元へと歩み寄って行く。

「ようこそお越しくださいました。異端審問官様。」

まきエルも恭しく頭を下げる。
異端審問官クリスエスが儀式の場に姿を見せたのだ。しかし、共回りを連れていない。
クリスエスほどの強さがあれば必要ないのかもしれないが、つまりこれはクリスエス個人で動いているということだ。

「まきエル様、お久しぶりです。頭をおあげください。」

クリスエスの言にまきエルは頭を戻す。

「ご覧の通り、すでに準備はできています。あとは雨乞いの歌を捧げるのみ。」

まきエルは祭壇を見上げる。

「こるんという吟遊詩人を一目見ておきたく思いましてね。」

クリスエスの目的は吟遊詩人こるんを見定めることのようだ。

「そうですか、それでは特等席でご覧ください。共に参りましょう。」

アナザーストーリー:儀式の始まり1 

雨乞いの儀は、早朝から始まった。
祭壇の周りには多くの民衆が集まっている。

「儀式を始める。」

まきエルの一言で、祭壇の上に火が灯った。

「神官たちよ、配置につけ。」

桐エルの声に合わせて、真っ白の装束とフードで顔の隠れた者たちが、列をなして祭壇を登っていく。その数、30名。

神官と呼ばれた者たちは、祭壇の上部まで上がると両端に列を形成した。

「太鼓をならせ。」

まきエルの指示に合わせて太鼓の音が鳴り始めた。

ドン……ドン……ドン……

信者たちは祭壇の階段の周囲に集まっており、そこには一本の道ができている。

信者の数は少なく見積もっても数千人はいるだろう。雨乞いの儀に合わせて大天使ミコエルが降臨するかもしれないと考え、信者たちが集まっているのだ。

雨乞いの儀がいつ執り行われるかについては、緘口令が敷かれていた。そもそも雨乞いの歌が完成するまでは執行できないことを考えれば、今日なのか、はたまた来月なのかも分からない。ゆえに、数千人単位で集まったことは、それだけミコエル教の信者が多いということだ。

アナザーストーリー:暴力と蹂躙6 

兎の獣人は、熊の獣人に話しかける。

「オマエ……テキ……ミス……クウ。」

ウガアアアアアア

熊の獣人はハンマーを振り上げて兎の獣人に襲いかかる。

「聞く耳すら忘れましたか。」

振り下ろされるハンマー。

ガシッ

兎の獣人は地面を抉るほどの威力のハンマーを軽々と受け止めた。

「軽い一撃ですね。」

兎の獣人は微動だにしない。

「力を奮うのは好きではないのですが。」

空気が変わる。

「覚えておきなさい。」

兎の獣人の周りの空気がまるで何かを恐れるように震えている。

「力をただ奮う者は、さらなる力によって粉砕されるということを。」

これは魔力だろうか。
熊の獣人よりも濃く、強い。

「せっかくです。この喜兵衛が少し教育してあげましょう。」

蹂躙が始まる。

アナザーストーリー:暴力と蹂躙5 

「単なるお節介焼きの兎です。さあ、今の内に。」

ぱるふは、言われるがままに走り出した。

「ありがとうございます。すぐに応援を呼んできます。」

名前も分からないが、この兎の獣人に任せるしかない。今の自分にできることは助けを呼ぶことだ。

「ええ、よろしくお願いします。」

兎の獣人は走り去るぱるふの背中を見ることなく言った。

「その頃には終わっていると思いますが。」

その言葉はとても小さく、ぱるふの耳には届かない。

ぱるふが走り去るのを見ることもなく、兎の獣人は空中から落ちた熊の獣人が起き上がってくるのを観察していた。

グウウウウウウウウ

熊の獣人は声にならない声を上げている。
ダメージがあるのかないのかも分からない。
赤黒いオーラだけは未だに消えずに身体とハンマーを包んでいる。

「魔力が暴走しましたか?見たところまだお若いようですし、力にばかり頼るのはよくありませんよ。」

アナザーストーリー:暴力と蹂躙4 

ぱるふは、お礼を言うことしかできない。

「礼には及びませんよ。あなたは、早く行って、このことをクロスフェードに伝えてください。」

逃げろと言ってくれているのか。あの熊の獣人の力は生半可なものではない。スキルの内容は分からないが、1人で戦えるような相手とは思えない。

「あなたはどうされるのですか?」

ぱるふは共に戦っても良いと思っていた。

「私はあの方のお相手をします。」

兎の獣人が指を指す。熊の獣人がこちらに気づき、再び高く跳び上がった。

あれだ、あれが来る。

「避けて!」

ぱるふは叫んだ。

「その必要はありませんな。"バレット"。」

兎の獣人が魔法を唱えると、周囲に複数の光球が出現する。ぱるふは気づいた。それが圧縮された魔力の塊であることに。

「あなたは……いったい。」

答えが返ってくる前に、光球が空中にいる熊の獣人を目掛けて放たれた。空中では躱しようがない。

熊の獣人は、光球に撃たれて地面に落ちた。

ズンッという音と共に地面が揺れる。

アナザーストーリー:暴力と蹂躙3 

結果を見れば、ハンマーは、ぱるふに当たることはなかった。

ズゥン………

ハンマーの音が響き、地面がめり込んだところから、数メートル離れたところにぱるふは立っていた。

「いったい何が?」

ぱるふは何があったのか理解できない。

「ほんの少し移動させただけですよ。」

後ろから声が聞こえた。
ぱるふは振り向く。

「セレスティアに行く用事があって関所に来てみたら、こんなことになっているとは、あなたも災難でしたね。」

そこには兎の獣人が立っていた。

「あ、あなたが助けてくれたんですか?」

ぱるふは、自分に何が起こったのか、まだはっきりと理解できていなかった。

少し先では熊の獣人がハンマーを地面から引き上げ、標的がいなくなっているのに気づいて辺りを見回しているような仕草をしているのが見えている。

「あのままだと、あなたがお亡くなりになっていたでしょうからね。少しお手伝いさせてもらいました。」

兎の獣人は、冷静な口調で熊の獣人の方を見つめている。

「えっと……ありがとうございます。」

アナザーストーリー:暴力と蹂躙2 

ドットエフェクトは、行動を妨害をするスキルではあるが、攻撃を封殺はできない。本来ならば動きを止めている間に敵を倒せる者と組むのが効果的だ。

あの魔物ハンターたちが先にやられてしまったことが、ぱるふの誤算だったのだ。

「ス…….ル……カ……スキ……ガ」

熊の獣人が何か言ったのをぱるふは聞き逃さなかった。スル?スキ?こいつ、まさか。

「マ……リ………ド」

これは……スキルの発動だ!
その瞬間、熊の獣人の身体が光り出した。

「これは……まずすぎる。」

スキルの発動と同時に"ドットロック"の効果が切れる。スキルで強化された相手の力を抑えられなくなったのだ。

熊の獣人が発動したのがどのようなスキルなのか想像もできないが、もはやぱるふが1人でどうにかできるレベルじゃない。

熊の獣人は、自由になった腕を確かめるように振り上げると、ハンマーをぱるふに向けて振り下ろした。

「逃げなさい。」

ハンマーが振り降ろされる前に、ぱるふはたしかにその声を聞いた。

アナザーストーリー:暴力と蹂躙1 

ズンッという音と共に熊の獣人が地面に着地した。足の下の部分にあった地面はめり込み、窪みができている。

ぱるふは、咄嗟に後ろに下がり攻撃を避けたため、踏み潰されることはなかったが、生み出された衝撃でさらに後ろに飛ばされた。

ぱるふは地面に転がる。受け身は取れたが、背中に鈍い痛みがある。

「くそっ、なんなんだこいつは。」

ぱるふは、口の中に血の味を感じた。
考える暇もなく、熊の獣人がぱるふに向かってハンマーを振り上げている。

「"ドットエフェクト"。」

ぱるふはスキルを発動した。ハンマーを振り上げた腕に狙いを定める。

「"ドットロック"。」

ドットエフェクト専用の魔法であるドットロックは、指定した範囲内のあらゆるものの稼働を制限する。動きを鈍らせる魔法に近いものだ。

熊の獣人の腕のあたりに小さな光の丸が集まり、ハンマーを振り下ろす腕がうまく動かないように固定しようとしている。

腕が突然うまく動かなくなった獣人は、低い呻き声を上げて動きを止めた。

「なんてパワーだ。長くは持たない。」

アナザーストーリー:到着、吟遊詩人3 

こるんの表情が一瞬暗く陰る。
こるんの脳裏によぎるのは、彼女を襲った純然たる恐怖。

"例の4人"の声だった。

完成を遅らせろとは言われたが、何か仕掛けてくるとは全く言っていなかった。

雨乞いの儀を妨害するつもりなら、もう私はすでに殺されているだろう。

まさか、雨乞いの儀に降臨する大天使ミコエルが狙い?相手は神の領域にいる者。生身で勝てるわけがない。

しかし、どこかで不安が拭えない。彼らなら何をしてもおかしくないからだ。

こるんは、そのことは伏せたまま、まきエルたちの勧めのままに、雨乞いの儀に向けた話し合いに参加した。

アナザーストーリー:到着、吟遊詩人2 

「ありがとうございます、まきエルさん。早速ですけど、これ、雨乞いの歌の"歌詞"です。」

こるんは一枚の紙を手渡す。まきエルはそれを受け取ると目を通す。

「ほう……これは。」

まきエルは息を漏らした。

世界が干上がる
バスの外は灰色
草木は立ち枯れ
小川は水を求める

雨よ降れ この地に
恵みをもたらせ
燃える山を頼りに
天へと祈りを届けるのだ
天へと祈りを届けるのだ

「素晴らしい。まさに恵みの音。文字を見ただけで、メロディーが流れてきそうです。」

まきエルは歌を気に入ったようだ。

「儀式では、歌に魔力を乗せて流します。そのためには言葉も大切ですから。」

こるんは、笑顔で言葉を返す。

「それでは、こるんさんも来られましたし、雨乞いの儀、最後の打ち合わせを行いましょう。これだけの警備です。何も起こらないとは思いますけどね。」

アナザーストリー:到着、吟遊詩人1 

「これが雨乞いの祭壇……。」

少し濃い緑色のローブを羽織り、濃く彩られた茶色の髪をなびかせている。

「こるん様、お待ちしておりました。」

吟遊詩人こるん。雨乞いの儀を執り行うために選ばれた"歌い手"である。恭しく声をかけられたこるんは、髪の毛を耳にかける仕草をしながら呼ばれた方を振り向く。耳に光る金色の装飾品が輝きながら揺れていた。

「桐エルさん、お久しぶりです。」

まきエルと共に大天使ミコエルに仕える者。以前、雨乞いの儀をお願いした時に会って以来だ。

「大天使ミコエル様もご準備が整ったと申しておりました。祈りの歌のご準備ができ次第、儀式を始めたいと思います。こちらへどうぞ。」

桐エルに案内され、石造りの祭壇のすぐ近くに建てられた小さな家のような場所に入る。そこにはまきエルも待機していた。

「やあ、こるんさん。雨乞いの歌の完成、おめでとう。」

まきエルは笑顔でこるんを迎えてくれた。

アナザーストーリー:国境線の獣7 

ぱるふの勘は的中した。
熊の獣人は、高い跳躍からぱるふの方へ向かっていた魔物ハンターたちにハンマーを振り下ろす。

ズドオオオオオオオオオン。

この音だ。
轟音と共に地面が抉れる。
先ほどの魔物ハンターたちは避けきれなかったのだろう。もはや姿は見えない。

グオオオオオオオオオオオオ

雄叫びが響く。
この獣人は魔物化している。
ぱるふはそう思った。
魔物化した獣人族は自我を失うのだ。

熊の獣人がハンマーをあげると、そこには大きなクレーターができている。そして、熊の獣人が、ぱるふの方を見た。

やばい……直感がそう告げている。

「オレ……ツヨイ……テキ……コワス」

熊の獣人が言葉を発した。
ぱるふは驚く。
自我がある。
魔物化することなくこれほどの力を!?

そう思った瞬間、熊の獣人はぱるふを目掛けて跳び上がった。

アナザーストーリー:国境線の獣6 

後ろ?いや、何もいなかったはずだ。魔物ハンターたちが指をさして走ってきている。

「上だ!」

聞こえた!上?どこの上だ?

まさか。

ぱるふは後ろを振り向き、関所の石壁の上を見上げる。

熊だ。

正確にはそこにいたのは熊の獣人だった。
手に握られた巨大なハンマー。
獣の皮を被ったような二足歩行の獣人だ。

しかし、ハンマー以上に、獣人から溢れ出るような魔力を感じる。オーラとでも言うのだろうか、全身が赤黒く発光し、ハンマーまで及んでいる。

その時、ぱるふは、熊の獣人と目が合ったような気がした。

そして、熊の獣人が大きく跳ねた。

その跳躍力は、ぱるふの知る獣人族とは比べものにならない。

ぱるふを軽々と飛び越える。

飛び越える?
はっ!いけない!

「避けて!」

アナザーストーリー:国境線の獣5 

ぱるふは、あまり戦うのは得意ではない。

学園に行くのは、あわよくば魔法師団に入れたらいいくらいには思っているが、自分のスキルを磨き、国から公認の資格を得るためだ。

スキル名:ドットエフェクト
ぱるふのドットエフェクトは行動妨害系のスキルだ。相手の攻撃範囲を縮小することなどもできるのだが、今はそんなことを言っている場合ではない。

ぱるふは走った。滑るようにセレスティア側の出口から飛び出す。そこには、大きな音を聞いてどうしようかと立ち尽くしている人々の姿もあった。

「壁の向こうに巨大な敵がいます!避難してください!魔物ハンターの方々は迎撃の準備を!」

ありったけの声で叫ぶ。

おそらく魔物ハンターだろう。数名の者たちがこちらへ向かって走ってきている。ぱるふは、後ろを振り向いた。まだ追ってきてはいないようだ。

「………だ。」

こちらに走ってくる魔物ハンターたちが何かを叫んでいる。ぱるふは、耳をすませたが、周りの逃げる音が混ざりうまく聞こえない。

「う……だ。」

アナザーストーリー:国境線の獣4 

ぱるふは、一度外に出て、別の方法で通してもらえないかどうかを交渉しようと背を向けた。その瞬間、轟音と共にアビサル側の出口が破壊された。

ぱるふは、背後で鳴った轟音に即座に反応し、振り向いた。先ほどまで少し先に見えていた出口が、かなり大きくなっている。

どうやら周囲の石が破壊されたようだ。

よく見ると、誰かが倒れているのが分かる。外の光が照らしたのは兵士だった。

兵士が吹き飛ばされて出口にぶつかり、石の壁を粉砕したのだ。どれほどの力でぶつけるとそんなことができるのだろうか。

ぱるふは、咄嗟に身構えた。

グオオオオオオオオオオオオ

巨大な雄叫びがかなり近くで聞こえた。出口のすぐ外だ。声と同時に、大きな衝撃波を感じた。これは……大型の魔物がでたんじゃ?

トカゲアザラゴンという巨大な魔物の噂は、ぱるふも耳にしていた。

ぱるふは、アビサルとは反対側の出口に向けて走る。大型の魔物には魔物ハンターでなければ敵わない。先ほどの列には魔物ハンターたちもいたはずだ。

アナザーストーリー:国境線の獣3 

この時間ならすでに入口のところまで、迎えが来ているはずだ。

ぱるふは、列に並ぼうと歩き出した。

うわああああああああああ

突然の叫び声と共に、爆発音のような音がぱるふの耳に響く。

「なんだ?」

どうやら、出口の向こう側、アビサル側の方から聴こえてきたらしい。

ドオォォォォオオオオオオン

再び大きな音が聞こえた。何か硬いもので打ち付けたような音だ。

「何かあったんですか?」

ぱるふは、並んでいる列を先に行って、荷物の検査をしている担当者らしき獣人に声をかけた。

「いや、何も分からない。しかし、今の状況では……。」

再び音が聞こえ、最後に何を言われているのか聞こえなかった。これだけの音だ。爆弾でも爆発したのかもしれない。

ぱるふは、出口の向こう側にいるであろう知り合いのことを心配していた。

「ここ、通してもらえませんか?」

ぱるふはダメ元で聞いてみる。

答えは当然ダメだ。安全と状況が確認できない以上、通すことはできないとのことだ。

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