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「お互い、戦闘向きではありませんからな。ここは、ドイルさんに任せましょう。」

はなぽは、ドイルならば先ほどの攻撃を受けても反撃に転じるだろうと思っていた。

ちょうど時を同じくして、ごーぶす、ライチョー隊長Pは目を覚ましていた。まだ頭が少しフラフラしていて、身体には何か痛みが残っている。

どうやら少し気絶していたようだ。そして、撃たれたことを思い出したかのように横になったまま自分の羽を見る。傷ひとつない。

だが、先ほど撃たれたことだけは間違いない。油断していた。魔方陣を狙って来る奴がいることを想定しておくべきだった。

「平和ボケしたか。」

ごーぶすは、ゆっくりとその身を起こした。羽を広げて感覚を確かめる。動く。感覚を確かめると、ごーぶすはスキルを発動する準備に入る。

スキル"成レ果テ"。
このスキルを封印するためにごーぶすはセレスティア草原の守護者を引き受けた。広い草原の中の小屋にいて、時折魔物を倒し、時折ミコエル神殿で大天使に祈りを捧げる。それで良かった。

"かつての大戦を生き抜いた"ことで得たライチョー隊長Pの称号は伊達ではない。

ブラックレインは闇属性の攻撃魔法。広範囲に散弾のような闇の魔法を放つ。1つ1つの威力が低い代わりに避けることが難しい。

避けようとした春沢翔兎、そらうみれいにブラックレインがヒットする。本来ならばそれほどのダメージが入る魔法ではないらしく、両者ともブラックレインに当たることは覚悟していたようだ。

しかし、俺の魔法は威力がちがう。

「ぐぅぅぅぁぁぁ。」
「きゃあああああ。」

通常の魔法よりもなぜか威力が上がるのは、先の戦闘で経験済みだ。ブラックレインでダメージをおったところに、まだ威力の残るムーンゲイザーの爆発が迫り、今度は2人が爆煙に呑まれる結果となった。

「ふう、危なかったですな。」

ドイルが魔法を放っている頃、はなぽとタダトモは、プリズマリンで作った壁の中に隠れていた。スキルは間に合ったが、それでも防御が完全には間に合わなかったため、ダメージはある。

「すいません、はなぽさん。僕まで庇ってもらって。」

はなぽは左手を、タダトモは右足をそれぞれ負傷していた。動けないほどではないが、戦いの継続は難しかった。

大天使ミコエルのスキル"大天使の加護"、その力は『あらゆる魔法の発動時間を0にする』という詠唱時間短縮と『一定時間あらゆる災悪から身を守る無敵状態になる』という鉄壁の守り。先ほどの上空からの一撃を受ける直前、俺はミコエルの契約書を解除し、再び発動していた。そして、どれだけ春沢翔兎が早かろうと、大天使の速度はそれを遥かに上回る。

『シャイニーウインド』
『ムーンゲイザー』

詠唱時間なく、2つの魔法を発動する。
レーザーのような風の筋が2人を襲う。
そして、ムーンゲイザーは爆裂魔法。
魔法の書物によると、月の力を引き出して満月のごとく半径1メートル圏内を円形に巻き込んだ爆発を起こす。襲ってきた奴らにそれほど手加減は必要ない。

「くそっ、仕留め損ねたか。」

春沢翔兎は魔法の範囲から逃れようと横に跳ぶ、そらうみれいは再度上空に飛ぼうとしているよあだ。

「させねえって言ったろ?」

すでに射程圏内だ。この機を逃す手はない。
俺は追撃の魔法を唱えることにした。

『ブラックレイン』

爆煙が立ち込める中、魔方陣の上に立つ春沢翔兎が告げる。その言葉に反応にして、空から降りて来た黒い影は、音もなく地面に着地する。

「ととさん、お腹すいた……。」

着地すると同時に尻尾のような部分がピクリと跳ねる。その出で立ちは、ドイルが言った通り、海洋生物のエイに酷似している。背中に羽根のように広がっていたのはヒレに当たる部分、背中の中央部から長く伸びているのは尻尾ではなく尾棘(びきょく)と呼ばれるトゲである。しかし、その姿は人型で、まるでフードを被っているようにも見える。

「えいさん、だからちゃんとご飯食べようって言ったのに。」

そらうみれい。銃を持つその姿から分かる通りスナイパーである。

「だって、何が食べたいか分からないし。」

少し間を置くような落ち着いた話し方からは銃を扱う鬼気迫るような雰囲気は全く感じられない。

「はぁ、仕方ねえ。クロスフェードに行ったら何か食べよう。」

春沢翔兎はやれやれといった表情をしているが、いつもこんな感じといった様子だ。

「させねえよ。」

未だ爆煙収まらぬ中、俺は2人に強襲をかけた。

そうか。この移動速度。
ちがう。地面じゃない。

「2人とも、上だっ!」

俺は大声で叫んだ。

「今ごろ気づいても遅いぜ。なあ、えいさん。」

春沢翔兎が上を見た。
3人も同時に上を見上げる。

空に浮かぶ影がある。太陽に重なって顔は見えないが、手には銃を持ちこちらを狙っていることだけは分かる。背中の後ろあたりからだろうか、羽根のようなものが広がり、細長いものが伸びている。あれは……尻尾か?

えい……えい……エイ?もしかして、エイは名前じゃなく種族名、ということは海洋生物か。

そんなことを考えている内に、空にある影の先がキラリと光った。

撃ってくる。
直感が教えてくれた。

「"クラフト"、"メモリア"。」

はなぽさんも気がついたようだ。
上空に向けてスキルを発動している。

「遅いぜ、御三方。」

春沢翔兎の言葉が聞こえたと同時に、俺とはなぽさんとタダトモさんが立っている付近の地面が爆発した。

こんばんは。異世界レミルメリカで冒険を繰り広げているドイルです。 お楽しみ頂けているでしょうか?

ボカロ丼にいる面々が姿を変えて登場する異世界で紡がれる冒険活劇。
次は誰が登場するのか?自分はどんなキャラクターで描かれていくのか?戦々恐々としながらお待ちください。

ストーリーに出る条件はたった1つ

ボカロ丼にいること

それでは異世界にて皆様をお待ちしています。

春沢翔兎は俺と目があったまま動かない。仲間を待っているのか?ごーぶすさんを守らなければならない以上、無闇に動くこともできない。それなら、これだ。

サーチ:春沢翔兎

春沢翔兎
称号:
種族:獣人族
固有スキル:ジオ
レベル:58
経験値:ーーーーー
体力:2800
魔力:1000
攻撃:1000
防御:450
敏捷:2000
状態:敏捷力向上レベル3、高速移動レベル2

それほどステータスは高くないが、はなぽさんやタダトモさんよりステータスが高い。それに固有スキルにある"ジオ"。どこかの雷魔法みたいな名前だが、名前から内容が予測できない。1つだけ分かることは、おそらく先ほど気がつかない内に魔方陣の所にいたのは高速で移動したからだ。

「ドイルさん、敵の姿が見えません。」

タダトモさんの声が聞こえた。

「私の方も見えませんぞ。」

2人とも相手が見えてないのか。しかし、マップの上ではあと数十メートルも距離はない。見えてもおかしくないのに、どういうことだ?銃だけが移動している?それはない。

拝借?転移の魔方陣を何に使うつもりなのかは知らないが、これはセレスティア王国の首都クロスフェードにつながっている。いきなりこちらを撃ってくるような奴らなんかに使わせたら悪用される未来しか見えない。

「あなたのような方にその魔方陣をお貸しするわけにはいきませんな。」

はなぽさんも同意見のようだ。

「あらあら、怖い顔しちゃって。交渉決裂、どうする?えいさん。」

えい?銃を撃ってきた仲間のことか。
ん?マップの赤い丸が移動してる?

「はなぽさん、タダトモさん、さっき銃を撃った奴が移動してます。まっすぐこっちに向かって来てる。」

もう一人がこちらに向かっていても、この春沢翔兎から目を離すわけにはいかない。

「ドイルさん、距離はどのくらいですか?」

タダトモさんが壁の向こう側を見ながら尋ねてくる。赤い丸の移動はかなり早い。

「あと数百メートルもない。しかもまっすぐこっちに向かってるぞ。」

こんな速度で移動できる敵なら……

「タダトモさん、そろそろ目の前に見えるはずです!」

「誰だ、あんたは。」

ごーぶすさんの治療も終わった。俺はまだ倒れているごーぶすさんをかばって前に立つ。

魔方陣の上に立っていたのは、目立つピンク色の毛をしたウサギの獣人。鋭く光る眼光がチラリとこちらを睨んでいる。

「あんたはやめてくれ。ちゃんと春沢翔兎って名前があるんだ。」

春沢翔兎……聞いたことのない名前だが、名前からしておそらくボカロ丼の関係者だ。俺がレミルメリカに転生してからもボカロ丼に人が増えているならば、レミルメリカもその影響を受けているに違いない。もしくは、もっと前からいたけど、俺が絡む機会がなかったかのどちらかだ。今はそんなことを言ってる場合ではない。

「愛情を込めて、ととさんって呼んでくれても構わないぜ?そうしたら少しくらい愛してやるよ。」

愛だって?何を言ってるんだ?

「春沢さんとおっしゃいましたか。なぜ、隊長に攻撃をしたのですかな?」

はなぽさんは前方を警戒しつつ、こちらに質問を投げかける。

「隊長?ああ、この鳥さんのこと?うちら、転移の魔方陣がほしくてさ。できたみたいだからちょっと拝借させてもらおうと思って。」

そうか、壁の未来を見て、穴が開いてないかどうかを確認したのか。意外なところで役に立つところを見ると、タダトモさんもはなぽさんも自分のスキルをうまく使いこなしていることが分かる。

「よし、俺もごーぶすさんを。」

ミコエルの力で魔力は充分にある。

「癒しの力"パーフェクトヒール"」

はなぽさんやタダトモさんにも使った完全治癒魔法だ。通常のヒールよりも回復力は高く、その分魔力を消費するが、治りも早い。

ただ、傷は治るが、はなぽさんやタダトモさんの様子を見ていた限り、どうやら回復してからもすぐには動けないらしい。どちらにせよ、ごーぶすさんが動けるようになるまではここで凌ぐしかない。

「へぇ〜これが転移の魔方陣ってやつですか。」

魔方陣のある方向から声が響いた。
はなぽさんやタダトモさんも前方からの射撃にばかり気を取られていたのか、気がついていなかったようだ。俺も回復に集中しすぎて周りが見えていなかった。

はなぽさんの時もそうだったけど、俺はどうにも周りが見えない性質らしい。
くそう、何も成長してないな。

そんなことができるとは思えないが、スキルのある世界だからどんなこともありうると納得するしかなかった。しかし、この距離から撃たれているなら敵の姿も見えないからどうしようもない。

「はなぽさん、3キロ先の前方に敵がいます。相手は銃です。防げる壁とかはありませんか?」

はなぽさんのスキル"クラフト"なら壁を作ることもできるかもしれない。

「そういうことならお任せあれ。"クラフト"発動、"プリズマリン"。」

俺を閉じ込めたあの壁の魔法が発動する。壁は4枚。前方を防ぐように縦一列に並べられている。油断はできないが、これなら貫通しないかもしれない。

「はなぽさんは、周りを警戒してください。俺がごーぶすさんを治療します。」

俺は大天使ミコエルの契約書を起動する。

「僕も、はなぽさんに力を貸します。"ミライノート"。」

タダトモさんはスキルを発動すると、はなぽさんの作ったプリズマリンの壁に触れる。

「大丈夫です、この壁は銃弾は貫通しません。」

どこだ、どこから聞こえた?
銃声の聞こえた先を探ろうと周りを見渡す。

「ごーぶすさん!!!」

背後でタダトモさんの叫び声が聞こえた。
まさか……。背後を振り向くと、ごーぶすさんが倒れている。

「大丈夫ですか、ごーぶす殿。」

はなぽさんも駆け寄る。

「きゅ、急所は外れてくれている。」

良かった。どうやら生きていてくれたようだ。しかし、羽根と脚を撃ち抜かれたようで倒れたままになっている。

まさか突然撃たれるなんて思っていなかった。油断していた。

銃声ということはどこかに撃った者、狙撃者がいるはずだが、姿が見えない。

「くそっ。それなら。」

サーチ:狙撃手

頭の中に周辺の地図は出るが、赤い丸は出てこない。ということは、狙撃手という名前ではないということだ。それならこっちはどうだ。

サーチ:銃

人ではなく物をサーチの対象にする。
頭の中に赤い丸が表示された。
距離にして約3キロ、辺りには何もない草原のど真ん中だ。まさか、地面にうつ伏せになってこの距離を撃ったっていうのか?

「受験したいなら、明日にでも一緒に学園まで行きましょう。案内しますよ。」

願っても無い申し出だ。最初から先輩がいるのは心強いな。

学園についての話が一区切りしたところで、ごーぶすさんから声がかけられた。

「お前ら、準備できたぜ。」

俺たちは、ごーぶすさんに小屋の裏手まで案内された。そこには、わりと大きな魔方陣が描かれている。見たことのない文字だが、以前、どこかで見たルーン文字なんかに似ている気がする。

「転移ってのは、それなり魔力を使うからな。こういう魔方陣を書いて、魔力の消費を抑えるのさ。」

不思議そうに魔方陣を見ていた俺にごーぶすさんが説明してくれた。どうやら転移をするためには行き先の設定が必要らしく、転移先にも同じ魔方陣が必要だそうだ。どこにでも勝手に転移できるとなると悪事に使われてしまいかねないからこその対策だろう。

「もう一通り、行き先まで設定してあるから、あとはこいつに魔力を流……。」

パァン!パァン!パァン!

突然響いた音に俺は耳を疑った。この音には聞き覚えがある。映画なんかでよく聞いた音。

銃声だ。

「ドイルさん、学園に入りたいんですか?たしか今ちょうど、受験者のエントリー中ですよ。」

タイミング良すぎだろ。運営神の調整でも入ってるのかと疑いたくなる。

「どうやったら受けれます?その試験。」

まだ首都にすらたどり着けていないのに、試験なんて受けれるのかすら分からない。

「学園の試験なら当日飛び込みで行っても受けれますな。あれだけの魔法が使えるドイルさんなら問題なく入れるでしょう。」

試験なんていつ以来だろうか。

「もしかして、筆記試験とかもあるんですか?」

さすがにレミルメリカに関する知識を問われるような問題が出たらどうにもならない。言葉が分かるから、TOMOKI++さんが調整とかもしてくれているのかもしれないが、元々の頭は調整してくれていないだろう。

「学園は中で授業があるので、適性試験だけですよ。受験者も多すぎて、座って試験とかできませんし。」

よく考えたらタダトモさんもはなぽさんも、その倍率を勝ち抜いたのか。タダトモさんとか、学園に行きながら仕事してるみたいだし、かなりのエリートなのでは?

アナザーストーリー:招かれざる客25 

「ラングドシャPさんも、ありがとうございました。」

切身魚はラングドシャPにもお礼を伝えた。

「協会から出たところをラムドさんに連れてこられただけだし、俺も大したことはできてないからねえ。」

と言いつつ、少し嬉しそうに笑っている。

「さて、私は帰りますよ。ほら、もう朝になってしまいます。」

喜兵衛が天井に空いた穴を指差す。
全員が天井を見上げると、もう空が白み始めていた。切身魚は足元に擦り寄ってくる猫の感触を確かめつつ、改めて3人に感謝を伝えるのだった。

アナザーストーリー:招かれざる客24 

「逃げちまったけど、良かったのかい、捕まえなくて。」

ラングドシャPはまだ暴れ足りないといった様子だ。

「切身魚さんを助けることが目的じゃけぇ、今回はここまでにしときましょうや。次の時に捕まえりゃぁええ。」

ラムドPの回復魔法が終わり、切身魚は身体を支えられながら立ち上がった。

「皆さん、ありがとうございました。私の力が足りないばかりに多大なご迷惑を。」

切身魚は頭を下げる。

「切身魚さんに大事がなくて何よりです。それにこちらこそ、最後まで隠れていて申し訳ありませんね、あまり人前に出るのは慣れていないものですから。」

喜兵衛さんも頭を下げる。

「いえ、おかげで助かりました。でも、ラムドPさんが猫に気がついてくれていなかったらどうなっていたことか。」

あのまま、夕立Pの炎を受けていたら確実にこの世にはいなかっただろう。

「困った時はお互い様じゃけぇ気にせんでええ。まあ、今度、美味しいもんでも食べさしてつかぁさい。」

ラムドPは笑いながら斧を担ぎ直す。彼なりの照れ隠しなのかもしれない。

アナザーストーリー:招かれざる客23 

「わしとあんたの仲じゃないか、こりゃあ貸しにしとくけえ。」

ラムドPは気さくに話しかけているが、とてつもない大物だ。"マケッツ"、それは膨大な魔力を持ってレミルメリカに月の女神を召喚した"生ける伝説"の者たちの総称。それぞれが月の女神の加護を受けたレアスキルを持ち、その所在はほとんどの者が知らず、"世界の危機"にのみ動くとさえ噂される存在。

「あなたには貸しを踏み倒されてばかりですからね。まあ、今回は人助けということで、許して差し上げましょう。それで……夕立Pでしたか。まだ暴れ足りませんか?」

喜兵衛が夕立Pの方を見る。

「くっ……。」

ラムドP、ラングドシャP、そして喜兵衛。
いくら夕立Pでも、グングニルと相討った後の魔力でこの3名を相手にするのは無理がある。

「少し熱くなりすぎたようです。ここは、退散するとしましょう。」

夕立Pは自らの周りに炎を纏わせると高く飛び上がり、図書館の屋根を突き破って外へ飛び去っていった。

アナザーストーリー:招かれざる客22 

「ラムドさん……避けて……ください。」

ラムドPは切身魚に回復の魔法をかけているところだ。

「もうちぃとじゃけぇ動くなや、切身魚さん。」

切身魚の傷は思ったより重症だ。魔力が枯渇していて、うまく傷がまだ塞がり切らない。

「それに、ここに来とるんは2人ばっかしじゃぁねえからなぁ。」

その言葉が終わらぬ内に、ラムドPの背後に迫った炎の渦が"何かに呑み込まれたかのように"消えていく。

「あんたがこの国にきちょるこたぁ分かっとったし、呼んでおいて正解じゃったよ、なぁ、喜兵衛さん?」

ラムドPと切身魚のいる場所のさらに後ろ。いつからそこに居たのか、本棚の前には雄々しく立つウサギの獣人の姿があった。

「私がこの国にいるからと言って、こんな時間に急に呼び出していいわけではありませんよ、ラムドPさん。」

暗い本棚の陰からゆっくりとこちらへ歩いてくる。

「喜兵衛…….喜兵衛だと!まさか"マケッツ"かっ!」

夕立Pが驚きの声を上げる。

「"マケッツ"……そんな。」

切身魚も驚いているようだ。

アナザーストーリー:招かれざる客21 

Zutqと書いてズク、ラングドシャPの称号を持つ男。セレスティアを中心に冒険者をしている氷魔法の使い手である。

「氷使いごときが、この夕立Pの炎を止められるものか。」

夕立Pの口から放たれた炎の熱線が一直線にラングドシャPに襲いかかる。

「おっと、鳥さん。そんな単調な攻撃じゃ、俺の氷は溶かせないよ?」

ラングドシャPは目の前に分厚い氷を作り出し、熱線を受け止めた。氷の中央に赤い穴が空いたが貫通するには至っていない。

「おのれぇ、そんな氷で。むっ、そうか、わざわざお前を狙わずとも。」

夕立Pは向きを変え、ラムドPと切身魚の方を見た。

「おいおい、そっちはダメだって、お前の相手は俺でしょ。」

ラングドシャPは氷のつぶてを夕立Pに向かって放つが、羽根を掠めたのみである。

「ラムドとやら、そこで切身魚を守っていては動けまい。くらえ、"ほのおのうず"」

まだ魔力が尽きないのか、再び炎が切身魚たちの方へ向かっていく。

アナザーストーリー:招かれざる客20 

「ぐおおおおっっ。」

氷塊が夕立Pに激突する。どれほどのダメージを与えることができたのかは分からないが、今の呻き声は苦痛によるものだろう。

「切身魚さんの攻撃は無駄じゃなかったようじゃのぉ。」

ラムドPは切身魚を守っているのか、その前から動こうとしない。

「何者だ!」

夕立Pの声が図書館の中に響く。

「むっ!そこかぁ!」

夕立Pが羽根を震わせると、火のついた羽根が何枚も暗がりに刺さる。

「バレてしまいましたか。あまり隠れるのは得意じゃないですし、仕方ないですね。」

夕立Pの攻撃は全て氷壁に遮られていた。

「ズクさん、ちょっと任せてええかい?」

ズクと呼ばれたのは、帽子を被り、全身を白い服に身を包んだ男だった。

「切身魚さんを回復するくらいの時間は稼いでおきますよ。どうやら相性も良さそうですし、このラングドシャPにお任せあれ。」

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