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タダトモさんは俺と別れた後、クロスフェードの近くにある森で一仕事してきたらしく、その報告のために協会に行くとメッセージで教えてくれた。そこで、俺も付き添って顔を出すことになったのである。marさんに聞いたところ、冒険者や魔物ハンターに登録しておいて損はないらしい。

大通りに面した道沿いに冒険者・魔物ハンター協会はある。かなり大きな建物で、中規模なホテルと言われても信じてしまいそうだ。

タダトモさんと待ち合わせて中に入ると、高い天井が俺たちを出迎えた。

「ドイルさん、ここが協会です。奥に広くなっていますが、右側にあるカウンターが総合受付になっていて、用事はすべてあの場所で伝えます。」

たしかにカウンターがあり、受付っぽいスタッフが6人ほど並んでいる。奥には扉があり、スタッフ専用の部屋になっているようだ。階段もあり、スタッフが書類を持って階段を上がっているのも見えた。

そこから2日間、俺はクロスフェードの市内の散策を楽しんだ。知らない場所だらけだったが「マップ」と「サーチ」を使えば大抵の場所は分かる。

marさんのところへ行き、街のことも色々と教えてもらった。

鍛冶屋、武器屋、雑貨屋、花屋、飲食店、露店……大概のものはクロスフェードの中で揃ってしまう。他の国、プロムナード、アビサル、プリズム、リッカ、シルバーケープの話も聞くには聞いたが、まだ覚えるには時間がかかりそうだ。ついでに、図書館にも行ってはみたが、鍵がかかって閉まっていた。

クロスフェードの外の草原を歩き、転移してきた岩の扉のような所まで行ってみた。魔物に遭遇することもなく、平和な草原を堪能した。親子でピクニックを楽しんでいる獣人族だろうか、カエルに似た種族の家族が楽しそうに遊んでいた。

あっと言う間に2日が過ぎ、俺はクロスフェードに来て3日目の夜を迎えていた。

これからタダトモさんと一緒に冒険者・魔物ハンター協会に顔を出すことになっている。

小金井ささらさんとタダトモさんは、近いうちにまた会う約束を取り付けた。

タブレットには連絡先も入れておいたので、これでいつでも「メッセージ」の魔法を飛ばすことができる。kentaxさんたちにも聞いておけばよかったと思ったが、それは次の機会を待つことにしよう。そうそう、ごーぶすさんとはなぽさんの連絡先も、タダトモさんからは教えてもらえた。

ごーぶすさんには、もう少し詳しいことが分かれば大天使ミコエルから聞いたスキルの話を教えよう。

俺はベッドに転がりながら異世界に来てからこれまでのことを思い出していた。

マキエイさんや春沢翔兎さんは剣闘師団と会った後、どこへ行ったのだろう?

「天空の頂き」への行き方は?

魔族はいったいどこにいるのだろうか?

図書館へも行かなければならない。

異世界でもやることは山積みだ。

色々なことを考えながら俺の意識はいつしか眠りに落ちていった。

部屋には家具はほぼなかったが、俺には「クラフト」がある。タダトモさんが、素材さえ手に入れたら自分で作ることができると教えてくれて助かった。斡旋屋に素材を頼むと、すぐに手に入れてくれるとのことだった。

こうして、俺は今、自分の部屋のベッドの上で何とか横になれているというわけだ。

すでに外は完全に陽が落ちている。俺はタブレットを取り出し、アイテムボックスを起動した。

……………
アイテムボックス(1504/∞)
ドイルの契約書1
ミコエルの契約書1
TOMOKI++の契約書1
わんわんPの契約書1
ライチョー隊長Pの契約書1
白紙の契約書1496
封印の鍵1
セレスティアの市民証1
受験票1
……………

所持金:99,700,000イェン

支払いでお金が減ったが、TOMOKI++さんのお陰でまだまだゆとりはある。

元々豪遊するつもりもないため、節約しつつ、可能であればタダトモさんのように学園に通いつつ何か仕事を探してみよう。

斡旋屋から紹介してもらった部屋は、大通りからは少し離れていたが、学園まで徒歩3分という好立地な建物の2階に位置していた。

1階は以前花屋があったが、数ヶ月前に閉めてしまい、そのまま借り手がつかないとのことだった。クロスフェードでは、1階に店があると家賃が上がるようだが、学生であることも考慮して月20,000イェンで貸してくれるそうだ。部屋は2LDK(リビングダイニングキッチン)。

入り口から入って左側にはトイレ、右側に洗面所と浴室、まっすぐ進むとダイニングキッチンがあり、左右に部屋がある。それなりの広さだ。お風呂がそこそこ広いのは個人的にはありがたい。転生前に住んでいた部屋がシャワーしか浴びれない狭さだったことを思えば天国だ。タダトモさんと小金井ささらさんが心配してくれて、借りるところまで付いて来てくれた。

「僕よりもいい部屋かもしれない。この値段でこの間取りなら優良物件ですね。」

しかも、斡旋屋に許可を取って「ミライノート」で部屋の耐久性まで確認していた。本当に便利なスキルだと思う。

すれ違い様に姿をを見ている内に、彼女は発行所の中に入り、ドアを閉めてしまった。

「ようこそ、ここはクロスフェードの街だよ。」

marさんの声が中から聞こえる。

どうやら初めてのお客さんらしい。もうそろそろ外も暗くなっている。わりと若そうに見えたが、女性一人で歩けるくらいにはクロスフェードの治安は良いのだろうか。

とはいえ、心配する必要もないか。それに俺たち3人を気にもとめていない様子だった。

そんなことを考えていると……。

「リッカの姫。」

小金井ささらさんがぽつりと何かを呟いた。俺には何のことか分からなかった。

「ありがとうございました。」

marさんは、また困ったことがあれば気軽に相談に乗ってくれるらしい。そして、開いたままになっていたドアから出ようとしたその時……

目の前に突然現れた一人の女性にぶつかってしまった。

「ごめんなさい!」

咄嗟のことで避けられなかった。わりと強くぶつかってしまった。

ぶつかった女性は…

「いえ、大丈夫です。」

バランスを崩した様子もなく平然と立っている。よく見れば、軽装ではあるが鎧をつけている。腰には軽く扱いやすそうな長剣。

俺をさっと避けてドアから中に入る時、後ろで括られたポニーテールが目に入った。立ち振る舞いから戦士とは少し違う気品を感じる。

たしかkentax団長は剣闘師団は男ばかりだと言っていた。ということは彼女は冒険者か何かなのだろうか。

marさんに促されるまま、市民証に魔力を流す。市民証が薄く白い光を放つ。

しばらく魔力を流していると、市民証の発光も弱まっていった。

「とりあえずそれで登録は完了だ。あとは無くさないように持っていてくれ。」

marさんに言われた通り、俺はすぐにアイテムボックスに収納する。

「あとは家を借りるだけですね。」

タダトモさんの言う通りだ。このままだと寝る場所がない。外はそろそろ暗くなり始めている。

「そうか、市民証がないと泊まるところも決まらねえのか。それなら、この近くの斡旋屋を紹介してやるよ。」

願ってもないことだ。俺はmarさんにすぐに斡旋屋に連絡を取ってもらい、約束を取り付けた。

紹介だけあって、すぐにでも空いている物件を用意してくれるらしい。

「ありがとうございました。」

これで野宿をせずに済みそうだ。斡旋屋との連絡の内に、俺たち3人は、小金井ささらさんの勧めで夕食を食べることになった。どうやら大通りにオススメの店があるらしい。

「さあ、行きましょう。」

タダトモさんの号令で、俺たちは発行所を出ようとした。

「ちなみに、俺のは戦闘には向かない魔力だけどな、そのあたりは学園で教えてくれるはずだぜ。」

marさんは笑いながら言った。

「よく学園に行くと分かりましたね。」

俺の問いにmarさんはまたニヤリと笑った。

「この時期は市民証を取りに来る奴が多くてな。それに推薦状をもってくるような有望株なら間違いなく学園の受験生だ。」

そういうものなのか。

「私とユキちゃんも学園に行く。」

小金井ささらさんがポツリと口に出した。

「ささらさんも学園の受験するんですか?すでに魔法師団にまで入っているのに?」

タダトモさんが驚いているようだ。

「団長に言われた。学園に行っておいでって。」

小金井ささらさんも受験するのか、転移の魔法といい、優秀な魔法使いみたいだし、色々教えてもらえるとありがたい。

「まだクロスフェードのこともよく分かってないし、よろしくお願いしますね、ささらさん。」

ユキちゃんの人形が無言でうなづいた。よろしくしてくれるようで何よりだ。

「よし、ドイルさん、魔力を流しな。」

「代金は、剣闘師団が負担してくれるってよ。よかったな。」

そうなのか。推薦状、すごいな。

「ドイルさん、市民証には魔力を登録しないとダメなんですよ。」

タダトモさんが横から教えてくれた。たんなるカードじゃないのか。

「魔力を流して登録すると、本人の証明になるってことさ。魔力は人によって少しずつ違うからな。」

魔力に違いがあるのか、それは初耳だ。

「そうなんですか。魔力に違いなんてあるんですね。」

ミコエルからもそんな話は聞かなかったからな。

「ユキちゃんと私の魔力は、人形や物に通すことに優れている。」

小金井ささらさんはそう言うと、ユキちゃんに魔力を通わせる。ユキちゃんが、腕の上に立ち上がり、ぺこりとお辞儀をした。

魔力で動かしているのだろうか?

「僕の魔力は"ミライノート"に通すことで力を発揮するんですけど、単純な魔法の威力はあまり出ないタイプの魔力らしいです。」

ミライノートは使い方によっては強力なスキルだから、その分他の魔法の力が落ちてるのかもしれないな。バランス調整みたいな考え方だけど。

「それでは、そろそろわたくしは冒険の旅に行って参ります。」

おっと、シオコさんと小金井ささらさんの話も終わったかな?

「ユキちゃんがまたって言ってる。」

小金井ささらさんはユキちゃんの魅力を語れて満足したのだろうか、充実した顔をしているように見える。

「またお会いしましょーーーう!さらば!」

シオコさんは、思いのほか颯爽と扉を開けて出て行った。なんだったんだ?

「うん。ユキちゃんはかわいい。」

小金井ささらさんが満足そうだからよしとしておこう。よく見たら、シオコさん、ドアを開けたまま出て行ってるよ。道化師だからという理由では説明がつかないな。

ドアを閉めに行こうかと思っていたら、ちょうど声をかけられた。

「ドイルさん、できたよ。」

marさんが奥から戻ってきていた。タダトモさんと小金井ささらさんも、新しくできた市民証に関心があるらしく、marさんに近寄っていく。

「ありがとうございます。」

俺はカウンターにいくとmarさんから市民証を受け取った。

「構わないよ。市民証な。」

そうだ。marさんに推薦状を渡さないと。

「あと、これを貰ってきました。」

俺はアイテムボックスから推薦状を出して、marさんに手渡す。

俺の横ではシオコさんが小金井ささらさんにユキちゃんの人形についての話を聞いているようで、それなりに盛り上がっているらしい。2人の絡みには興味があるが、ここは市民証優先だ。

「推薦状か。これがあれば発行はら……おいおいマジか。」

marさんは渡された推薦状を開いて驚いているようだ。

「団長2人分の署名と、建造師さんの推薦、しかもあの隊長さんからのお墨付きか。これはもう審査も必要ないな。」

あれ?団長以外の名前も入ってるのか?いつのまにかライチョー隊長Pのお墨付きももらっていたらしい。たしかに契約書は持っているけどさ。

「じゃあ、少し待っててくれ。」

marさんはそう言うと、推薦状を持って奥へ歩いて行った。

「よかったですね、ドイルさん。」

タダトモさんがニコニコしながらこちらを見ている。たしかに、楽にもらえそうで何よりだ。

「どこに行くのですか?」

小金井ささらさんが口を開いた。
ユキちゃんの髪の毛を直していて全く話に入ってきていないと思ったら、このタイミングで入ってきてちょっと驚いた。

「その人形、髪型。あなたが噂の人形遣いさんですね〜っ。お会いできて嬉しいです。」

シオコさんはすっと手を差し出した。握手を求めているようだ。

小金井ささらさんは、突然の握手の求めに驚いたようだが、シオコさんの手にユキちゃんの手を持って握らせた。

「ユキちゃん、握手。」

これはこれで驚くべき光景だと思う。

「これはこれはご丁寧に!ユキちゃん、ううん、ユキちゃん、これは可愛らしい。」

握手をしながらシオコさんは唸っている。何だか不思議なノリの人だ。

「ユキちゃんかわいい。」

だめだ、こっちもカオスだった。シオコさんと小金井ささらさんの絡みは横に置いておいて、俺はmarさんに声をかける。

「シオコさんの後、すぐで申し訳ないのですが、市民証をつくって頂きたくて。」

marさんはカウンターの下から紙を数枚取り出しながらこちらを見た。

シオコは首元に目立つ黄色の蝶ネクタイを両手でもって引っ張るような動作をする。

情報量が多すぎる。レミルメリカにはサーカスでもあるのか?

「しおこさん、できたぜ。」

marさんが、一枚のカードを手渡す。

「おお〜っ、ありがとうございます〜。これで、わたくしも正式に冒険者ですな。マイニューギアと叫びたくなりますねえ。」

ということは、そのカードは証明書みたいなものなのか。まて、そもそもマイニューギアって何だよ。

「冒険者の証ですか。おめでとうございます。」

タダトモさんが横から言葉を発した。しかも流してるし、マイニューギア。

「再発行には金がいるからな、無くすなよ、シオコさん。」

marさんからの注意をよそに、シオコ、ヒャクブンノイチPと名乗った男はニヤニヤと笑いながらカードを光に掲げたりしている。なんだか、とても楽しそうだ。

「お任せください!よぉし、旅に出るぞお。」

よく見れば、シオコさんの足元にはそこそこ大きなリュックサックが置かれている。このまま出発するのだろう。

アナザーストーリー:蜜柑と酒場と珈琲と10 

「だからね、私はいつもこうするって決めてるの。愛はね、私の愛はね、思うままに振りかざして、壊してしまうものなのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

闇姫Pが顔に手を当てて、そのまま膝から崩れて落ちる。

はなぽはそれを見ていることしかできない。

「だから、だからね、はなぽさん。」

闇姫Pがゆっくり顔を上げて、はなぽのほうを見つめた。

「あなたにも私の愛をあげる。」

はなぽの記憶はそこで途絶えた。

後には沸き立ったお湯のボコボコという音だけが響いていた。

その日……

はなぽ、わんわんPは消息を絶った。

程なくして、クロスフェードの酒場ではしおまねきの耳にこんな噂が聞こえてきた。

夜の闇に紛れ、鋸を振りかざした蜜柑が襲ってくる……と。

アナザーストーリー:蜜柑と酒場と珈琲と9 

「ねえ、愛って不思議だと思わない?」

突然、闇姫Pはそんなことを言い出した。

「愛し、愛されることを人は幸せと呼ぶけれど、誰かを愛してしまうと雁字搦めになってしまう。」

なんの話をしているのか、はなぽには全く分からない。この女はヤバい。本能がそう告げている。

逃げなくてはいけない。一刻も早く。

はなぽはそう自分に言い聞かせた。

だが、身体が動かない。
動いてくれないのだ。

「だからね、私はいつも思っているの。愛なんて言葉は反吐がでるって。」

闇姫Pの瞳から色が消えるのが、はなぽにはなぜかはっきりと見えた。

「そうなの、私にとって愛は玩具。誰かに買ってもらう遊び道具。でもね、愛には玩具と違って、説明書はないの。」

闇姫Pの声が急に暗くなる。
黒い髪の毛が逆立っているように見えるのは幻想だろうか。

アナザーストーリー:蜜柑と酒場と珈琲と8 

「お待たせしてしまってごめんなさいね。あなたが、はなぽさん?」

はなぽは、名前を呼ばれて我に返った。

「どちら様……ですかな?」

目の前に突然現れたのは、黒い服の女だ。ヒラヒラとしたスカートには赤い薔薇の花があしらわれている。長い黒髪と立ち姿は、まるで貴族の令嬢のようにも見える。

だからこそ、溢れすぎる違和感。

どうやってここに立ち入ったのか。
どうして自分のことを知っているのか。

疑問が溢れたことで、はなぽの思考は一時的に止まってしまった。

「私は、越黒リタ。闇姫Pって呼んでもらっても構わないわ。」

聞いたことのない名前だ。
少なくとも面識はない。

「闇姫P殿。いったいどんなご用け……。」

はなぽの目の前から闇姫Pが姿を消した。
はなぽは目を離したわけではなかった。

しかし、目の前に姿がない。

「あなた、寂しい目をしてるわね。」

後ろから突然声が聞こえた。

「っっっ!」

はなぽは声もあげず飛び退いた。
人型を解いて、蜜柑に戻る。その方が、狭い家の中では動きやすいからだ。

アナザーストーリー:蜜柑と酒場と珈琲と7 

仕事が終わったら飲んでみようと思って準備していたのだ。

「たしか淹れ方が書かれていましたな。」

購入したときに貰った説明書を読みながら、準備をする。淹れるためには色々な道具がいるようだが、それらはすべて"クラフト"で事前に作成しておいた。

説明書の通りに耐熱性のカップの上に濾過装置にも似た器具を設置する。

まもなくお湯も沸くだろう。

「あら、いい香りね。」

突然部屋の中に声が響いた。

「送ってくれてありがと。御礼は今度ね。」

何が起きたのか分からず、呆然と眺めるはなぽを余所にその黒い服を着た女は投げキスをするような仕草を見せた。床にある影に向かってしているように見えた。

「辞退させて頂く。」

今度は別の声が響く。
影が少し動いたようにも見えた。

「そう?それは残念。あっ、帰りは自分で帰れるから大丈夫よ。」

女がそう言うと、床にあった影がまるで生きているかのようにどこかに消えた。

アナザーストーリー:蜜柑と酒場と珈琲と6 

地面をぴょんぴょんと跳ねて家の壁に向かう。蜜柑が跳ねている光景は、周りから見れば面白いものかもしれないが、果樹族という種族にとっては普通の移動手段である。

「"クラフト"」

家の壁にスキルを使うと、そこには小さな穴が開いた。はなぽはその穴をくぐり、中へ入る。はなぽが潜り抜けると穴はすぐに塞がった。

これははなぽなりの防犯だ。侵入者などクロスフェードには、ほぼあり得ない話だが、用心に越したことはない。

はなぽは、蜜柑から再び人の姿に戻ると、棚の上からヤカンを取り出し、水を入れて火にかけた。はなぽは、火の魔法を使えないため、家では魔石を利用して火を起こすコンロという機械を使っている。プロムナードが開発した製品らしく、今ではほとんどの家庭に常設されている。

湯が沸くまで待つ間に、はなぽは飲み物を淹れる準備をした。

アビサルで流行している黒い飲み物。強い苦味はあるものの、獣人たちを興奮状態にすることで力を上げる効果があるとされるこの飲み物を、はなぽは以前、入手していた。

アナザーストーリー:蜜柑と酒場と珈琲と5 

はなぽの家が見えてきた。薄いオレンジ色の壁をもつその家は"クラフト"で自ら作成したものだ。タダトモの"ミライノート"で耐久性も保証されている。家の横には工房も隣接しており、それほどの広さはないものの住むには充分なものだった。

「数日休んだらまた出発ですな。」

少し小さくため息混じりのひとりごとだ。はなぽは次の仕事を控えていた。

海洋の国・プリズムのしょこらどるふぃんからの依頼で、海底ミコエル神殿の耐久確認へ行くことになっていたのだ。海へ行くのは久しぶりだ。果樹族である自分にはほとんど縁のない場所でもあった。

はなぽは自宅へたどり着いたが、よく見ればその家にはドアがない。扉が作られていないのだ。

「来客もなかったようですな。さて。」

はなぽは、これまで維持していた人型を解いた。身体が白い煙のようなものに包まれると、そこには黄色く、丸い、蜜柑が出現した。

「元の姿の方がやはり楽ですな。」

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