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アナザーストーリー:"擬態"の者3 

それもそのはず。これだけ本人と分からない声で話すことができるのであれば、悪用する方法はいくらでもある。

「また散財でもしたのか?貴様はいつも同じ過ちを繰り返してばかりだからな。」

クリスエスは情報屋として夕立Pに依頼をすることがあったらしい。お互いに知らぬ中ではないのだろう。

「も〜っ、ひどいなぁ、クリスエスさんは。こんな可愛い美少女を捕まえて貴様だなんて〜。」

またしても先ほどの女の声になる。

「しおまねき様、m-a様、こいつの正体は男だ。そして、この夕立Pは特異体質でな。」

クリスエスの言葉にメッセージの先から反応が返ってくる。

「クリスエスさん、そこから先は俺が自分でいいますよ。」

口調がこれまでのモノと異なっている。これが正体なのか?

「俺はたちやん、夕立Pの称号を持つ情報屋です。ちなみに、さっきまでのお遊びは、スキルではないので悪しからず。」

スキルではない?
では、魔法なのか?
#ボカロ丼異世界ファンタジー

アナザーストーリー:"擬態"の者2 

「なっ……。」

口調と声が突然変わった。しかもこの声と話し方は……。

「驚かれましたかな?しおまねき情報官殿。私はたちやん。夕立Pの称号を頂いております。おっと、失礼、つい"同じ声"で。」

そう。メッセージの先から聞こえてきたのは、しおまねきと全く同じ声だ。気をぬくと自分が話しているのではないかと錯覚しそうになる。

「しおまねき様、私が変わろう。私は外交官を務めるm-a、夕立P、貴君に協力をお願いしたい。」

「おいおい、しおまねき様よ、俺みたいなフリーランスに声をかけるなんてどういう風の吹き回しだぃ?俺は高いぜぇ?」

今度はkentax剣闘師団団長の声だ

「やめろ、夕立P。」

クリスエスが口を挟んだ。

「クリスエスの旦那、俺、最近ついてなくてよぉ。魔道具は壊れるわ、女は全然引っかかってくれないわで、そろそろでっかく儲けないと生活がヤバイんだわ。」

本当に団長が話しているように錯覚してしまいそうになる。

(これが、擬態か)

しおまねきとm-aはあからさまに警戒している。

アナザーストーリー:"擬態"の者1 

「メッセージ。」

魔法を発動し、しばらく待つと向こうと接続されたことが確認できた。

「つながったようですね。m-a様、しおまねき様、つながりましたよ。」

異端審問官クリスエスはメッセージをオープンに切り替える。ぐへへPとの会議を終えた後、彼ら3名は新たな国難に対処するための準備を行っていた。

「ありがとうございます。クリスエス殿。突然のご連絡を失礼する。私はセレスティア王国、情報官のしおまねき。そちらは夕立P殿でよろしいだろうか?」

称号、夕立P。"擬態"の異名を与えられた者。

「え〜っ、どちら様ですか〜?あたし、何のことかわかんないんで〜、もう一回言ってもらえます〜?」

メッセージの相手からは、予想もしない声が聞こえてきた。

「クリスエス殿、これは……。」

しおまねきとm-aは呆気にとられているようだ。明らかに若い女性の声。

「ふん。いつものことだ。」

クリスエスは落ち着いている。

「も〜っ、ひどいな〜クリスエスさん。そんなことばっかり言ってると〜、女性に嫌われてしまいますぞ、クリスエス殿。」

アナザーストーリー:音と記憶と試練の島5 

そして、数分後。

「白継さんからの定時連絡はどうしました?」

監視者であるはずの白継から連絡が途絶えて数時間が経過した。

「本部長、先ほど定時連絡を受け取りました。試練の島1468にて魔物の活性化が認められるとのことです。」

異様な魔力反応の正体はそれか。
文月フミトは決断する。

「試練の島1468を一時的に封鎖。事態の収拾に当たる。白継さんだけでは、魔物を狩るのが難しいことを考慮し、魔物ハンターに討伐を依頼する。現地に魔物ハンターがいるかどうかも確認してくれ。それから、すぐに候補を選抜、依頼を出す準備を。」

文月フミトは切迫する。
それから数時間の後、試練の島1468へ向かう魔物ハンター10組が選抜され、派遣された。

「学園の野外実習も近いのだ。今の時期に、魔物たちを暴れさせるわけにはいかない。」

文月フミトは急いでいる。

アナザーストーリー:音と記憶と試練の島4 

「本部長、先ほどの魔力反応は彼らに関するものです。そして、彼らからの要求はたった1つ。試練の島1468を実験のために借りることです。」

白継からの報告、いや、これは要求なのか。しかしなぜ白継がこんな。

「どういうことだ。試練の島で実験など、許可できるはずがない。」

危険度5の島での実験。内容を聞かずとも分かる明らかな危険行為だ。そもそもこんなことをする奴らがまともなはずはない。

「本部長、ダメです。ここは要求を飲ん……。」

白継の声が途絶える。

「許可を頂けないのですか。交渉決裂、いや、交渉の余地もなさそうですし、これは仕方がありません。"この話はなかったことに"。」

なんだ、音が聞こえる。

ー考えるのをやめてただひたれば追憶の中でしあわせになれるのにー

これは……歌……なのか?楽器?
司令室に響く謎の音。
まさか、先ほどのrainydayのスキルか。

「全員、試練の島をふう……さ…………。」

文月フミトの記憶はそこで途絶えた。

アナザーストーリー:音と記憶と試練の島3 

メッセージを協会本部の司令室全体に聞こえるように設定する。

「フミト本部長、白継です。」

文月フミト。
自身も魔物ハンターの経歴を持ち、若くして協会のトップに立った有能な人物である。

「白継さん、無事だったようで何よりです。先ほど、試練の島1468で異常な魔力反応を検知された件についての報告を……。」

「あなたが文月フミトさんですかな?」

メッセージに割って入る別の声。くぐもったような声だ。変声の魔法でも使っているのだろうか?

「誰だ。お前は。」

文月フミトは警戒した。

「私のことをお話するつもりはありませんが、ふむ、名乗らないのも失礼にあたりますか。私のことはrainydayとお呼びください。しがない流浪の民ですから覚える必要はありません。」

rainyday、聞いたことがない名前だ。

「それで、何の用だ。話に割り込んで来るのだから相応の理由があるのだろう?」

文月フミトは聞き返す。

アナザーストーリー:音と記憶と試練の島2 

「本部長、未だ定時連絡ありません。」

これまで白継が定時連絡を欠いたことは一度もない。だが、試練の島1468に行くと言い残し、連絡を絶った。

しかもその後しばらくして、試練の島1468で異様な魔力反応が検知された。すでに反応は収まっているものの、白継からの情報が無ければ判断も難しい。

「1468に向かったハンターたちに連絡はつかないのか?」

メッセージを使い連絡を試みている通信班に確認を取る。

「ダメです。メッセージ先に相手がいないようです。何かあったとしか思えません。」

メッセージが通じないのではなく、相手がいない。つまり、相手はすでに死んでいる可能性が高いということだ。

「くっ、誰か動けるハンターや冒険者に連絡して調査をかけるしかないか。」

協会本部が情報を把握できないのは信用に関わる。しかし、事態は一刻を争うかもしれない。

「え?本部長、外部からメッセージが、しかもこれは白継さん?監視者からです。」

良いタイミングだ。

「繋いでくれ。緊急の可能性もある。回線はオープンでいい。」

アナザーストーリー:音と記憶と試練の島1 

魔物ハンター・冒険者協会。
レミルメリカに存在するすべての国から資金援助を受けて設立された専門機関である。

各国に1つずつ支部が置かれ、その本部は試練の島を有するシルバーケープの内陸部に置かれていた。支部の運営はほぼ独立しており、定期的に連絡が入る以外は、本部も支部もその役割は大差ない。

魔物ハンターや冒険者への依頼の斡旋
魔物の情報収集と管理

この2つだけだ。

その点で言えば、シルバーケープにある協会本部は、試練の島の魔物の情報が多いため、最も忙しい場所かもしれない。

トカゲアザラゴンの一件以来、試練の島には多くの魔物ハンターと冒険者が足を運んでいた。腕に覚えのある者たちが、こぞって"天空の頂"を探していたからだ。試練の島にヒントもしくは天空の頂へと至る道があるのではないかと考える者たちも多かったのである。

そして今、協会本部は情報収集に追われていた。

「白継さんからの定時連絡はどうしました?」

監視者であるはずの白継から連絡が途絶えて数時間が経過していた。

はなぽさん、さらっと嘘をついたぞ、今。
はなぽさんがこちらを見て軽く笑う。

「いきなりやってきて、不躾なお願いですが、よろしくお願いします。」

俺も頭を下げる。

「仕方ねえ。2人送るも3人送るも同じだ。準備するから、ちょっと待ってな。」

どうやら転移させてくれるようだ。

「隊長さんは口調は厳しいけどいい人ですから。」

なんかタダトモさんがフォローに回っている。俺は別に厳しいとも思ってないけど、どうしたんだろう?こんな得体の知れないやつが突然やってきたら疑うだろうし。

あれ?そういえば、俺って転生して来てから見た目どうなってるんだ?服装はなんか転生した時に、どこかの魔法学校みたいなローブにいつのまにか着替えていたから気にしてなかったけど。

実年齢は会社に勤務してたことがあるし、25歳だ。でも、どうにもタダトモさんの話し方からすると、かなり近い年齢のように思われているんじゃないだろうか。ボカロ丼にいたときと同じ年齢なら、タダトモさんはまだ学生のはずだ。

「えっと、はなぽさん、タダトモさん、俺のこと何歳くらいに見えてます?」

この鳥が転移の魔法の使い手。しかも、ごーぶす。ということは、ライチョー隊長Pさんだ。ボカロ丼ではマジカルミライ2019の楽曲コンテストに名を連ねたボカロPだったはずだ。あまり関わる機会はなかったが、たしか大天使ミコエルともつながりが……。

「で、あんたは誰だい?」

突然こちらに話が飛んで来た。

「えっと、初めまして。ドイルと言います。よろしくお願いします。」

驚いたけど、普通に返事ができた。

「ドイルねえ。んで、称号は?」

称号?なんのことだ?
よく分からないと顔に書いてあったのだろうか。

「なんだ"称号なし"か。俺はごーぶす、称号はライチョー隊長P。この草原の管理者だ。」

やはりライチョー隊長Pだ。そうか、称号というのはボカロPとしてのP名か。聞き専だった俺にはついていないから、やはり称号はなしということになるのだろう。

「隊長さん、ドイルさんも一緒に王都まで転移させてあげてくれませんか?」

タダトモさんが頼んでくれた。

「ドイルさんは、私たちが神殿を直すのを手伝ってくれた方です。ごーぶす殿、お願いします。」

「あれが目的地ですよ。」

1時間も歩いてはいないと思うが、それなりの距離を歩いたと思う。草原の真ん中に、ポツンと小屋のようなものが建っている。小屋とは言っても、それなりの造りで、石積みの煉瓦でしっかりと家の周囲は固められている。ここに転移の魔法が使える人がいる。

「あれがセレスティア草原を管理している方の家ですよ。」

タダトモさんが教えてくれた。広い草原だから管理者が居ても不思議じゃない。

「彼自身も"動物"ではありますからね。本来は王都に家もあるんですが、自分に転移を使うのは面倒らしく、ほとんどここに住んでいるんですよ。」

どんな人が出てくることやら、いや、人じゃない可能性も高いのか。

「僕、呼んで来ますね。隊長、隊長〜。」

隊長?まさか……あの人か?

「誰だ。俺は忙しいんだって、なんだ、タダトモのボウズか。」

鳥だった。赤か、黄色か、判別しづらいが、見た目可愛いらしい。話し方とのギャップが凄まじい。

「ごーぶす殿。ただいま戻りました。」

はなぽさんが挨拶する。

「はなぽさんも一緒かよ。てことは、改修が終わったんだな。」

「ところで、はなぽさんとタダトモさんはドワーフか何かなんですか?」

ステータスを確認したため、はなぽさんの種族が果樹族なことは分かっているのだが、これは確認だ。

「僕はハーフドワーフなんですよ。人間とドワーフのハーフです。ドワーフ族には、建築をはじめ、構築系のスキルを持つ人が多いので。」

スキルが遺伝にも関係するということだろうか?

「私はドワーフではないですよ。私は仕事をする時や、外を出歩く時には今の姿をしていますが、実際には果樹族という種族なので。」

秘密とかではないので少し安心した。

「はなぽさんは、果樹族の中でも珍しい"蜜柑"の果実ですからねえ。」

タダトモさんの言う通りなら、ボカロ丼に出てきていたあの姿なのか?

「今はお見せできませんが、また機会があればお見せしますよ。」

はなぽさんは笑っている。

「さて、ドイルさん、異世界から来たというあなたのために、もう少しこの世界のことをお話ししておきましょうか。」

レミルメリカの歴史、セレスティアという国の話、そして、セレスティアを除く5カ国の話。3人の話は尽きないのであった。

アナザーストーリー:司書7 

ドンドンドンドンと扉を叩き、一人の男が中へと入ってくる。初老という言葉を体現した落ち着いた空気の中に、一抹の鋭さを宿している。

「お初にお目にかかります。学園の理事長をしております。mai と申します。ナチュラルPの称号を頂いております。」

ナチュラルP、月の崇拝者として知られる彼は先王の時代から学園を統べる者。

彼女は読みかけの本を音もなく閉じると、椅子を立ち上がり、軽く頭を下げる。猫は膝から飛び降りると、音もなく地面に立ち、尻尾を立てて彼女を見上げる。

「初めまして。ナチュラルP殿。セレスティア図書館の司書を務めます、切身魚です。」

2人の話は夕刻まで続き、切身魚は図書館司書を継続しつつ、週に二度、学園の教壇に立つことになった。話を終え、ナチュラルPの背を見送った後、切身魚は帰り支度を始めた。未だ図書館の窓にうすら明りはあるのに、灯りが消えていく本棚は、闇に沈み黒い影と見えるばかりである。

アナザーストーリー:司書6 

本を開いた途端、足元に気配を感じる。彼女が足元に目をやると、暗闇の向こうに猫が一匹顔を出した。実に自然に柔らかく滑るように外へ出てくる。厳密には猫ではなく体躯は小さいが猫の魔獣である。猫は彼女の足元を抜けると座って前足で顔を擦る。それはそれは美しい。
彼女が本に目を戻すと、猫は音もなく彼女の膝に飛び乗った。猫は、彼女が召喚した魔獣である。特性は猫と変わらないが、召喚した者の近くをそれほど離れることはない。今日、彼女はこの図書館で待ち人をしている。
先日のことだ。その日は焼けるような暑さの日で、一通の手紙が郵便受けに入っていた。あまりにも仰々しい装丁だったため、何事かと思い急ぎ封を切ると、中には学園の教師として週に二度ほど働いて欲しい旨の依頼書がある。何の力が自分に働いたのかと凝然と考えてみるも解らぬことだらけである。彼女は決して多忙なわけでも、言われた依頼を断るつもりもなかったが、頼まれごとを疎略にすることは彼女の主義に反して居る。こと教師であれば尚更である。
彼女は学園の代表者に会いたい旨を打診した。まもなくドアが開くだろう。

アナザーストーリー:司書5 

それでも、時折、図書館には通っていた。

学園にいた頃は暇をもて余せば通い詰めていたものだが、卒業してからは仕事に忙殺されることも多かった。その中でも、司書の女性に会うために通い、受付に女性が座っている時には本も借りずに話し込むといった具合だった。なんとなく心が安らぐ。彼女にとって図書館はそんな場所になっていた。

ある時、図書館に来てみると、鍵は開いているのに女性の司書はいなかった。代わりに白髪の老人が座っており、女性の司書の行方を聴くと、知らないと言われてしまった。その日から一度も女性の司書には会っていない。

女性の司書がいなくなった次の日、彼女の家には差出人不明の荷物が届いた。入っていたのは"最初の一冊"、ヴァシーリー・グロスマン『人生と運命』。彼女は司書になることを決めた。

受付と一階の灯りを点け、椅子に身体を預けると彼女は本を手に取った。薄暗い灯りにぼんやりと照らされた長い廊下の始まりで、独り本を開く気分は、独特であった。しかし、我儘にも誰一人として居ない図書館では心は落ち着きにくかった。

アナザーストーリー:司書4 

今、彼女はこの図書館の管理を任されている司書であるが、初めてこの図書館へ来たのは学園の二年生の頃のことであった。学園の退屈から逃れてこの館の前に立ち、まるで何かに吸い込まれるように中へ入った。

入った目の前に座っていた一人の女性が「あら、あなた"魅入られた"のね。」なんていうものだから、応えに困っていると「あなた、司書に向いているわ。」と一冊の本を差し出してきた。その時の女性の表情が不思議と私の記憶に刻まれた。これという特徴もない顔立ちであるのだが、大人しく優しそうな顔をしている。色が白いからなのか、図書館から外へ出ていないからなのか、お世辞にも血色が良いとは言えないその顔は少し丸みを帯びていた。それでも、本を差し出したその手の指先は少し黒みがかっており、朝夕と本を手にとっている者のそれを感じさせるものであった。

それから約十年の間には、波瀾があった。学園を出てからの彼女は、本と無縁の生活を送っていた時期もあった。そうかと思えば、時折、無性に本が読みたくなり、何日も篭って時を忘れてしまうこともあった。

アナザーストーリー:司書3 

一階は、多岐に渡る分野の一般書が所狭しと並べられている。歴史、文学、医学、化学、数学、分野別の棚もあれば、小説や雑誌を置いている棚もある。一階の至るところに地下へと降る階段がある。

この図書館は地下三階建て。地下一階へと降ると、広間のような空間に出る。広い場所にたくさんの机と椅子が置かれ、個別のスペースに区切られた場所も散見される。地下一階は、利用者が読者や勉強に使えるように工夫された空間である。

地下二階へと降っていくと、空気が変わった印象を受けるだろう。レミルメリカにも研究は存在する。魔法があるからこそ、その可能性を追究する者も現れる。世界の事象を解き明かすことを望む者たちのための蔵書、研究書である。

地下三階は許可のない者は何人たりとも立ち入ることができない。歴史的に貴重な遺産になるべき書物、人の目に触れてはならない禁書等が収められている。人の居ない図書館は怖いくらいの静寂で、衣服の擦れる音ですらこの空間を破ることができるのではないかとさえ思える。

アナザーストーリー:司書2 

図書館の建物は、元々、王家の宿泊施設となっていた場所を先先代の国王が国民の教育力向上のためと改修に取り組んだものだ。国を巻き込んだ大きな戦争で一部が焼失したが、神殿の地下にある図書館へと本を移していたことで難を逃れた。

図書館のドアの前に立ち"開錠"の魔法を唱えると、カチリと音を立てて鍵が開く。慣れた手つきで静かにドアを開け、中に入る。まだ明かりのついていない屋内は、明かり取りの窓から入る淡い光にだけ照らされている。入ってすぐさま目に飛び込んでくる光景は、先が見えない程、長く長く奥へと続く本棚であろう。

この建物の内部は、魔道具によって亜空間に"収納"されている。入り口の開錠が魔道具の起動スイッチとなり、今ある場所と異なる場所を繋いでくれる。棚は見た限り幾重にも重なっており、棚の隙間を通ることもできるようになっている。入り口のドアをくぐると、目の前には小さな受付がある。

ここが"彼女"の定位置だ。ここにある数億を数えるかという本は、すべて彼女の管理下にある。本に何かあればすぐにわかるようになっている。

アナザーストーリー:司書1 

正門から王城へとまっすぐに続く道を歩き、工房の横にある道を左に逸れると図書館のある通りに出た。王城に続く道は、多くの人が行き交うため改修されることも多いが、一本横に逸れたこの通りは、これだけ街の風景が変わった後もあまり違わない閑静さを保っている。

工房の裏手にある塀を越えて、百日紅の枝が覗いている。膨らみ始めた蕾が、近く訪れる夏を教えてくれる。鮮やかな紅色が燃えている景色を思いつつ、木々が黄色に染まる季節まで長く私を楽しませてくれる枝たちを下から眺めると、蕾を支え嫋やかに枝垂れる葉が一枚一枚違った顔を見せてくれていることに驚いた。

工房の裏手を右に折れ、武器屋、宿屋の裏手を横目に少し歩くと、左手に赤い旗がはためく建物が見えるだろう。それが図書館の目印である。今日は本当は閉館日なのだ。図書館が開くのは週に4度。いつもなら学園の制服に身を包んだ初々しい子どもたちや、常連らしい者たちがちらほらと姿を見せるのだけれど、図書館のドアから中に吸い込まれていくように消えていく人々がいないということは、やはり図書館は閉まっているのである。

結界を破壊した者の狙いは、ミコエル神殿で行われていた王国の主要人物の会談を妨害することにあったと考えられている。

俺は名前を聞いて驚いたが、はなぽさんによれば、会談をしていたのは、ミコエル教の異端審問官"火刑"のクリスエス、プロムナードというセレスティアの隣国から派遣された"ハガネノウサギ"の異名を持つゆかいあの使者 KAI の2名だったそうだ。

2人ともボカロ丼にいたメンバーだ。
「火刑ミコエル」は、何度か見たことがあったが、ここまでレミルメリカに影響があるとは。

神殿に侵入した魔物たちは、その2名と偶然礼拝に立ち寄っていた魔物ハンターらしき者たちによって討伐された。

しかし、戦闘の中、神殿の一部が破損し、2人はその修繕を依頼されてきたということだ。神殿は修繕が終わるまで立ち入り禁止になっており、それで俺が疑われたというわけだ。

「少し長くなってしまいましたが、ご理解頂けましたかな?」

はなぽさんとタダトモさんが言うには、転移の魔法が使える魔法使いのところまでは数キロほど歩かなければならない。俺は、この世界の情報を聞いてみることにした。

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